フリークライミング -Free Climbing-
文・渡辺功
「お騒がせ男で知られるフランス人のアラン・ロベールさん(45)が、モスクワで高さ242mのビル登頂に成功後、警察当局に逮捕された」(07年9月5日付 朝日新聞夕刊)。
新聞の片隅で伝えられた小さなニュースだが、似たような話に聞き覚えはないだろうか。
じつはこの男、エッフェル塔(パリ)、エンパイアステートビル(ニューヨーク)、ゴールデンゲートブリッジ(サンフランシスコ)、ハーバーブリッジ(シドニー)、ペトロナスツインタワー(クアラルンプール)、TAIPEI 101(台北市)……と、過去何度も建物を登っては、世界中で逮捕されたり、怒られたりしている有名人。98年11月には、東京・西新宿の新宿センタービルを屋上まで素手で登り、建造物侵入の現行犯で逮捕された前科があるのだ。
日本でも、東京タワーに登ろうとしたり、プロ野球の試合中にバックネットをよじ登ったりして逮捕された‘お騒がせ男’がいたが、彼らにおススめしたいのが「フリークライミング」。90度を超える壁を身体ひとつで登るスポーツで、最近各地の公共施設やスポーツクラブには、練習用の突起の付いた壁がお目見えしている。
競技で「世界を驚かす」のなら、逮捕の心配はない。罰金を払うどころか、賞金だって手に入る。それに、もしアラン氏が世界大会に出場したら、いったいどれくらいのレベルなのか。ちょっと観てみたい気もする。
●概要●
登山の一環である「ロッククライミング(岩登り)」から派生して、より競技色、ゲーム性を高めたものと言える。「ロッククライミング」が、岩肌にハーケンを打ち、縄ばしごなどの登山道具を駆使して岩石を登り切るのに対し、命綱だけで、あるいは命綱なしで、制限時間内に登る速さや到達点を競おうとするのが「フリークライミング」。
摩擦力の強いゴム製の靴底の専用シューズを履き、滑り止め用の「チョーク(炭酸マグネシウムの粉末)」だけを頼りに、岩や人工壁をよじ登っていく。
腕力ではなく、身体の総合的なバランス感覚や柔軟性が上達のポイント。そのため、女性やこども、高齢者でも親しみやすい。また人工壁の普及で、街中でも気軽に行えるようになったことから、近年愛好者が急増。全国で約5万人が楽しんでいるという。
●歴史●
安全確保のための最低限の器具以外は何も使わず、自分の手足だけを頼りに岩場や岩壁を登っていくロッククライミングが、60年代のアメリカで流行りだした。背景には環境保護への関心があり、なるべく自然を傷つけずに登ろう。岩登りの原点に戻ろうとする動きだったようだ。また時代を前後して、速さや高さを争う競技としての登山大会が、旧ソビエトで始まっていた。
70年代に入ると、これらの流れが西ヨーロッパに広がり、フランスを中心に難度を追求するクライミングが発展。人工壁を使うクライミングも誕生した。また用具メーカーやテレビ局がスポンサーになったクライミングの賞金大会も開かれるようになり、88年に国際山岳連盟の主催で第1回のワールドカップが、アメリカ、イタリア、フランス、スペイン、ソ連を転戦するステージ形式で行われた。
日本では、ヨーロッパのクライマーたちが、全国の山岳で岩場のルートを開拓。日本人クライマーが後に続いた。ワールドカップのソ連ステージには日本選手団も参加。日本山岳協会は87年に第1回ジャパン・カップを開催した。だが、「厳しい自然環境に身を晒すのが本来の登山。屋内の人工壁での大会や、屋外でも雨天中止しないよう岩壁に屋根を掛けるような大会は、もう登山とは言えないのでは」との意見もあり、徐々に「フリークライミング」は登山の一部ではなく、独立した別のスポーツとして捉えられるようになっていく。
89年には、日本フリークライミング協会が発足。日本選手権など各種大会が行われている。また日本山岳協会主催のジャパン・カップが続いているほか、国民体育大会の山岳競技の種目になっている。(08年の第63回大分国体から登はん種目がなくなり、山岳競技はフリークライミング種目のみ行われる。)
独立の流れは世界も同様で、国際山岳連盟の内部組織として、97年に発足した国際競技クライミング評議会(International Council for Competition Climbing)が、07年1月に独立。国際スポーツクライミング連盟(Inter
national Federation of Sports Climbing)が組織された。現在5大陸72カ国が加盟。2年に1度の世界選手権が行われているほか、ワールドゲームズやアジア室内大会の正式競技になっている。07年12月、国際オリンピック委員会は、国際スポーツクライミング連盟を仮承認。今後、国際的な競技の発展、普及度などが認められると、五輪競技に採用される可能性がある。
●ルール●
安全確保のためのロープを使う「リード」と、使わない「ボルダリング」のふたつが、現在大会で主流の種目。
「リード」:高さ12m以上の人工壁を、ホールド(突起物)を利用して登る。制限時間のうちに、到達できたホールドの高さを競う。2人1組で行い、ひとりは壁に何ヶ所かある支点にロープを掛けながら登り、もうひとりが地上でロープを支えてやる。支える側は、登り手の動きを予想しながら、ロープの張り具合を調整していく。
選手は事前に一定時間、壁の下見ができるが、後に競技者以外は別の場所に隔離され、ほかの選手の登るところを見ることができない。どのホールドを使ったルートを選択するのかの判断も、勝負のポイントになる。
「ボルダリング」:高さ5m弱の、比較的低い人工壁で行われる。頂上の決められたホールドを両手で掴むとゴール。制限時間内に、いくつの壁を登れるかを競う。途中で落下しても、同じ壁に何度も挑戦できるが、その分ポイントはマイナスになる。やはり、ほかの選手が競技する様子を見ることはできないので、スタートと同時に、瞬時にルートを決断する。命綱を着けない分、床にはマットを敷いて行われる。
このほかに、上方からの命綱につながれた状態で、壁登りのタイムを競う「スピード」種目がある。
●競技団体●
日本フリークライミング協会事務局
〒214−0006
神奈川県多摩区菅仙谷2丁目−17−1−106
山本和幸様方
FAX:020−4623−0200
044−945−2476
公式サイト
http://homepage2.nifty.com/jfa/
(社)日本山岳協会
〒150−8050
東京都渋谷区神南1−1−1 岸記念体育会館4階
TEL:03-3481-2396
FAX:03-3481-2395
公式サイト
http://www.jma-sangaku.or.jp/
●大会スケジュール●
inga cup 2008
08年3月8日(土)
PUMP大阪店
(大阪府大阪市西淀川区中島1−13−23)
JFAユース選手権 2008
3月29日(土)、30日(日)
千葉県立幕張総合高等学校
(千葉市美浜区若葉3丁目1−6)
JFA日本選手権2008
08年4月12日、13日(予定)
PUMP2川崎店
(神奈川県川崎市多摩区中野島2−9−30)
第14回アジア選手権
5月22〜25日
中国・広州
