カポエイラ -Capoeira-
文・渡辺功
「逆立ちをしながら足技で闘う」「ブラジルの奴隷が、手錠をはめたまま闘うために生み出した」「格闘の訓練をしていることが支配者に悟られないよう、ダンスのふりをして練習するスタイルが出来上がった」……。
70年代に流行した「空手バカ一代」を始めとする格闘技マンガには、必ずと言ってよいほど‘謎のブラジル人刺客’が登場する。その敵役たちが武器とする格闘技「カポエイラ」についてのエピソードを、覚えのある人も多いだろう。もちろん大部分は、マンガならではのファンタジーなのだが、現実にカポエイラは法律で禁じられた歴史を持つ。
日本では最近、人気ミュージシャンのプロモーションビデオやCMにダンス風に採り入れられ、スーパーモデル出身の女優ミラ・ジョヴォヴィッチが映画内で披露などしたことから、注目が集まっている。また、全身運動のため、ダイエット効果を期待してカポエイラを始める、若い女性も増えているそうだ。
今回はそのファンタジーのベールを外し、カポエイラの素顔をのぞいてみよう。
●概要●
基本は1人対1人で、交互に攻撃と防御の動きを行う。手のひらと足の裏以外は地面につけず、手は防御と移動にのみ使う。蹴り技が中心になるが、攻撃の多くは「寸止め」。相手の隙を見つけても、倒すのではなく足を払って転がす程度。「組み手」のようなイメージだ。この攻防を「ジョーゴ(jogo:ポルトガル語で「ゲーム、遊び」の意味)」という。
ジョーゴをする2人の周りを、ほかのプレイヤーたちが「ホーダ(roda:同語で「円、輪」の意味)」と呼ばれる輪になって取り囲む。彼らは手拍子を打ち、独特の楽器を弾き、歌いあげる。ホーダの奏でる音楽の抑揚が「早く、遅く、強く」といったジョーゴに対する指示になっている。カポエイラに音楽は不可欠であり、舞踊の要素も色濃い。本来、勝ち負けを決める性質のものでないのだ。
ただ流派によっては、直接相手に打撃を加え、判定やポイント制で「試合」を行い「勝敗」を決める大会が開かれている。
「格闘技であり、ダンスであり、武道であり、そこにはアクロバットがあり、音楽がある。そしてアフリカンカルチャーを含む、ブラジルの誇る身体文化」。本国ブラジルでは、カポエイラを、このように表現するそうだ。
●歴史●
発祥には諸説あり、時代も定かではない。ただ、アフリカからブラジルに連れて来られた奴隷たちの護身術が、カポエイラの成立と深く関わっているのは確かなようだ。
1500年4月、ポルトガルがブラジルを植民地化して以降、約3500万人ものアフリカ人民が、奴隷としてブラジルに連行された。
カポエイラは、白人の支配から逃れ、ブラジルの森の奥で自給自足の共同体を営んだ、奴隷たちの手でつくられた。あるいは、アフリカ・アンゴラ地方南部で見られる、女性の成人を祝うダンス「シマウマの舞」に由来している。アフリカ各地から連行された奴隷たちが、それぞれ異なる自分たちの文化、格闘技、舞踊、音楽などを、奴隷小屋で交流させるうちに育まれた…など。その起源には、いくつかの説がある。
1808年に「ブラジル帝国」が誕生してからも、宗主国ポルトガルの影響は強く、アフリカ文化の弾圧、排除を強行した。黒人たちの団結を高め、反乱の芽になるからと、カポエイラも1892年に法律で禁じられた。カポエイラをする者は重罪に処せられるため、警察官が近づくと、仲間にしか判らない音楽を演奏して知らせ、耳にした側はすぐカポエイラを止め、ダンスをしているフリをした。日本のマンガのエピソードは、こうした史実を膨らませたのだろう。
1920年代から30年代にかけて、禁令が解かれると、道場や教室も造られ始める。貧民階層の秘密裏の文化だったカポエイラは、次第に多くの人に受け入れられるようになった。近年のブラジルでは、授業に採り入れている小学校もある。
現在、世界130カ国以上に拡がり、日本でも在日ブラジル人やブラジルで修行をした留学生たちが、全国で道場や教室を開いている。競技人口は1千人程度とされ、2005年11月には、国内の各団体の交流を図ろうと、日本カポエイラ連盟が結成された。
●ルール●
ジョーゴでは、勝敗を決めるわけではないが、両者の調和や流麗さで、優劣はハッキリするそうだ。上達者だと、攻防のリズムを維持したまま、相手の攻撃をかわして、自分の技を繰り広げていく。逆に相手の技を浴びて動きに詰まったり、立ち往生したりするのは、未熟な行為とされる。
競技に特化したカポエイラは、ブラジル大統領の前でデモンストレーションを行った経験を持つカルロス・セナという人物が、70〜80年代にかけて体系化していった。現在、各カポエイラ団体が競技会を開催するときには、1980年にセナが刊行した「規則集」を規範にしている。
以下は、06年12月に兵庫県で開催された「第1回カポエイラ競技大会」個人格闘競技の部で用いられたルールの一部だ。
直径3mの円内で行われ、2分の競技時間内に、最低6つの回転攻撃技を出さなくてはいけない。回転技が6回に達しないと、不足した回数分が減点される。
打撃や技で倒した相手の、臀部か背中が床に着くと2ポイント。倒れた相手が手で身体を支え、臀部や背中は床に着かなかった場合は1ポイント。打撃が当たった場合は0.5ポイントが、それぞれ攻撃側に加算される。
顔面への意図的な打撃、背面、および腰より下部への打撃技は禁止。床に倒れて防御姿勢を取っている相手への攻撃も禁止だ。
この大会ではほかに、ペアによる格闘競技(30秒ごとに、選手交代が認められる)。ソロ、ペアそれぞれの自由演技の部が行われた。
●競技団体●
日本カポエイラ連盟
http://sports.geocities.jp/ligajapao/
参考文献
カポエイラ(三田雄士、カルメン・ミタ著 現代書林)
魅力あるカポエィラの世界(政岡勝治著 『ブラジル特報』07年5月号)
http://www.bizpoint.com.br/jp/reports/oth/km0708.htm
