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綱引 -Tug of War sport-

文・渡辺功

 パワーホールド、ローリング、バックステップ…。まるでプロレス技のようだが、これらはすべて、「綱引」で用いられるテクニックの呼び名だ。身体を後方に倒して綱を引き、床との角度を20〜30度に保ったままで力を蓄えるのが「パワーホールド」。上体を左右に揺するように綱を引く「ローリング」。「バックステップ」は、両脚を交互に後退させていく技術のことだ。
 「オーエス!オーエス!」の掛け声とともに、みんなで力を合わせて綱を引く。運動会のイメージが強い「綱引」だが、紀元前エジプトの古墳の壁画に試合の様子が描かれているほど、長い歴史を持っている。現在でも、世界各地で行われているスポーツであり、じつは宗教的な色彩を帯びた祭事でもある。
 運動会や地域のお祭りから、世界選手権まで。綱を引いた方が勝つ。極めてシンプルでありながら、幅広く奥深い。「綱引」の世界を、一緒に垣間見ていこう。

●概要●

 日本を含む東アジア、東南アジアは、とりわけ綱引きが発達している地域だ。稲作が盛んなこの地域では、「豊穣、雨乞い」の儀式として、綱引きが用いられる。よく見受けられるのは、男女が対抗して綱を引く形式だ。女側が勝つと、その年は「豊作、雨に恵まれる」ことを意味する。この形式は、天空は父(男)、大地が母(女)だとする、古代からの考え方に由来する。天からの雨は精液の比喩であり、降雨によって母なる大地は豊かに稔る。綱引きでは、一方が綱を引き上半身を後ろに反らすと、他方が綱を差し出し前へ屈む。この行為が性交を模しており、「豊作、雨乞い」の祈念に綱引きを用いる、と考えられている。
 アジア以外でも、南北アメリカ、オセアニア、アフリカ、ヨーロッパ・・・。世界の各地では、その風土に応じたさまざまな綱引きが行われている。たとえば、カナダの先住民族イヌイットは、冬生まれのライチョウ組、夏生まれのカモ組の間で、アザラシの皮でつくった綱を引き合い、長い冬の天候を占う。ライチョウ組が勝つと荒天、カモ組の勝利が晴天を意味するそうだ。
 力自慢。宮中行事。領土の奪い合い。団体戦。個人戦。二股の綱を三方向に、三者で引き合う。杭に結んだ綱を引き、自分側に杭を倒すと勝ち。綱ではなく棒を引く。人の乗ったソリを引き合う。騎馬綱引き……。世界中に、意味合いやスタイル、道具などの異なった多種多彩な綱引きが、存在している。

●歴史●

 いわゆる競技としての、ルール整備が始まったのは15〜16世紀。この頃にはフランスやイギリスで、「綱引」競技のトーナメントが行われていた。19世紀後半になると、イギリスやアメリカで陸上競技の一種目となり、2回目の近代五輪である1900年のパリ大会から20年のアントワープ大会まで、正式種目として採用された。ただし、大会ごとに1チームの人数がまちまちだったり、対戦相手と選手の人数が違っていたり、まだ、ルールには曖昧な部分が残っていたようだ。
 20世紀に入ると、ヨーロッパ各国で綱引連盟が設立され、60年にはスウェーデンとイギリスの主導で、国際綱引連盟(Tug of War International Federation)が創設された。統一ルールも作成され、現在50を超える国が加盟。屋内、屋外それぞれの世界選手権も2年ごとに開催され、ワールドゲームズ(五輪種目以外のスポーツを対象にした国際祭典)では、第1回大会から正式種目になっている。2002年に、国際綱引連盟は国際五輪委員会に正式加盟。五輪での綱引復活を切望している。
 日本綱引連盟は80年に結成され、翌年2月には国際ルールのもと、第1回全日本綱引選手権大会を開催した。現在の競技人口は推定約3万人。屋内に関しては、日本の実力は世界トップクラス。過去の世界選手権では、男子が1回(04年大会600kg級)、女子は4回(99、02、04、06年大会480kg級)の優勝を記録している。

●ルール●

 国際綱引連盟が規定するルールでは、1チーム8人で綱を引き、合計体重によってクラス分けを行う。自陣に4m引き込んだチームの勝ち。最後方の8番目の選手をアンカーマンと呼び、8人中唯一手で握るだけでなく、綱を身体に巻きつけることが認められている。
 足の裏以外の部分を地面につけたまま競技続けるのは反則。そのほか、太腿に挟み込むなど、綱の自由な動きを妨げるような引き方や、座り込んだような姿勢で綱を引く行為も反則となる。
 綱は長さ35.5〜36m、太さ10〜12.5cmのマニラ麻製。 屋内では、滑りにくい綱引専用シューズか、靴底の平らなカカトのないスポーツシューズを履いて行なう。芝の上で競技するアウトドアでは、カカトに金属プレートをつけたブーツを履く。世界の主流はアウトドア。インドアとアウトドアでは、身体の向き、足の接地、使う技術や筋力などがまるで異なり、完全に別物の競技だと言われている。
 インドア男子のトップクラスになると、牽引力はひとりで150〜200kg、8人だと約1tに達するそうだ。

●競技団体●

(社)日本綱引連盟
〒150−8050
東京都渋谷区神南1−1−1 岸記念体育会館5F
TEL:03−3481−2531
FAX:03−3481−2534
http://www.tugofwar.jp/

大阪府綱引連盟
http://sports.geocities.jp/osakatug/index.html

●大会スケジュール●

08全日本綱引選手権
08年3月16日(日)
千葉ポートアリーナ
:千葉県千葉市中央区問屋町1−20

インドア世界綱引選手権
08年2月21〜24日
イタリア 

アウトドア世界綱引選手権
08年9月4〜8日
スウェーデン

参考文献
民族遊戯大事典(大修館書店)