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ハイアライ(ペロタ) -Jai alai(Pelota)-

文・渡辺功

2005年6月。スポーツ界の、ある“世界最速記録”に関するニュースが伝えられた。
「国際バドミントン連盟(IBF)は3日、男女混合の国・地域別対抗戦スディルマン杯(北京)で計測したスマッシュ速度を公表し、男子ダブルスの傅海峰(中国)選手の、時速332キロが最速記録となった。IBFによると、『ギネスブック』で球技の最速は、スペインや中南米などで行われている『ハイアライ』の時速302キロとなっており、“世界最速”を30キロも上回った」(05年6月4日付 共同通信)
バトミントンが世界最速の球技なんだと、IBFはアピールしたかったようだが、最新の「ギネスブック(2008年度版)」を見ると、この記録は「最速のバトミントンシャトル」になっており、「最も速い球技」の項目には、依然として「ハイアライ」が掲載されている。
ギネスが認める最速の球技「ハイアライ」。だが、実際に体験したり、観戦したりしたことのある人はいるだろうか。日本協会は存在しないし、全国を探しても、ハイアライクラブやハイアライ部は見当たらない。ハイアライ競技自体、過去に日本で行われた記録が残っていないのだ。
F1マシン並みの時速300キロでボールが飛び交う世界。日本では未知のスポーツ「ハイアライ」の入口に案内しよう。

●概要●

 スカッシュやラケットボール同様、壁にぶつけてはね返ってきたボールを、相手がリターンできないと、得点になるスポーツ。最大の特徴は、「セスタ」と呼ばれるショベルカーの作業部分のような形をした編みカゴを、右腕にはめてプレーすること。セスタでボールをキャッチ、そのままセスタを使って勢いをつけ、前方の壁に投げる。
 もともとは、スペイン北西部からフランス南西部に広がるバスク地方の「ペロタ」と呼ばれる伝統的なスポーツ。ペロタ(Pelota)とは、「ボール、球技」を意味するバスク語。ペロタには、素手でボールを打ったり、木製のラケットを使ったりと、道具やコートの大きさが異なるさまざまな種目がある。ペロタのうち、セスタを使う種目をハイアライと呼んでいる。ハイアライ(Jai alai)とは、バスク語で「楽しいお祭り」のことだ。
スペイン、フランスのほかには、かつてスペイン領だったフィリピンをはじめ、マカオやインドネシアといったアジア諸国で行われている。また、多くのバスク人が移住したメキシコや、キューバ、ハバナといった中南米諸国にも伝播している。
アメリカのフロリダ州やフィリピン、マニラなどでは、公営ギャンブルとして行われ、プロの選手が存在した。特にフィリピンでは、ハイアライの盛衰に政局が深く関係した。独裁者マルコス大統領の妻、イメルダ夫人の親族が賭けハイアライの利権を握っていたため、マルコス政権を倒したアキノ大統領は1986年に、ハイアライを禁止した。8年後、アキノに代わる新大統領の下で解禁されたが、続くエストラダ大統領が、違法のギャンブル組織から賄賂を受け取っていたスキャンダルが発覚。大統領辞任、逮捕に至った影響で、再び賭けハイアライは禁止されている。
じつは日本でも戦後まもなく、競輪やオートレースに続く公営ギャンブルの候補に、ハイアライが挙がっていた。このときは競艇を認可する法案が国会を通過。ハイアライに関する法案は、1953年に廃案となっている。

●歴史●

 2人のプレイヤーや2チームの間で、ボールを打ち合う遊びは、紀元前のローマやギリシャなどで行われていた。バスク地方では12世紀頃から、ペロタの競技化が進んだと言われている。
 対面で、あるいはネットを挟んで、壁を介して…。素手で打ち合う、皮手袋をはめて、ラケットを使って…。といった具合に対戦形式や道具の違いで、ペロタが次第に枝分かれしていくなか、1857年にカーブの付いた収穫用の小型バスケットを使うペロタが始まった。これがハイアライの起源になる。19世紀半ばから、ボールにゴム芯が使われるようになると、球速が飛躍的に上昇。それに対応するように、ルールも整備されていった。
 五輪では1900年のパリ大会、68年のメキシコシティー大会、92年のバルセロナ大会と過去3回、公開競技として採用されている。また、世界選手権も52年から開催されている。 

●ルール●

 前面、後方、選手から見て左側。この3面の壁に囲まれた競技場で行う。壁の高さと幅が約11m、前面の壁から後方までの奥行きは54mと、壁にボールをぶつけるタイプのスポーツのなかで、最大級の競技場を使用する。  
通常は2対2のダブルスで行い、前衛の選手は小さなセスタ、後衛が大きなセスタを使う。プロの試合ではシングルスも行われる。 
6〜40点制で、サーブ権を持つ側のみが得点できる。相手がノーバウンドかワンバウンドでボールをキャッチできない、前面の壁にボールを返せない、コートの外(右側)にボールを出してしまうなどして、リターンできないと得点になる(サーブ権を持つ側がミスすれば、サーブ権が移動)。
ボールをキャッチしてから、2歩後ろに下がることが許され、その後ボールを投げるのに、2歩助走をつけることが認められている。ただし、この捕球から送球までの一連の動作は、2秒以内に行わなければならない。
 コートの右側を使用しないことから、左側に投げやすいよう、セスタは必然的に右腕に付けることになる。ボールは直径約5cm。ゴムの芯にウール糸を巻きつけ、動物の革で覆って縫い付けてあり、非常に反発力が高い。このボールと、セスタの絶妙なカーブによる遠心力の働きが、時速300キロに達する球速を産み出している。反面、当たり所によっては惨事につながる可能性もあるので、普通はヘルメットを装着してプレイする。

●競技団体●

ペロタバスク国際連盟
http://www.fipv.net/cas/inicio/index.htm

●大会スケジュール●

世界選手権フランス大会
2010年9月開催

参考文献 「ルポ権力者 その素顔」(鎌田慧著/講談社文庫)