10月14日体育の日。秋晴れのいい天気で、千葉マリンスタジアムは海風と共に爽やかな秋風が吹き抜けていた。
 9時50分。関係者駐車場から球場入りするカブレラ選手。おはようと声をかけると、「眠い」を繰り返した。デーゲームは嫌いだ。早起きが嫌いという彼のいつもの表情だった。今日はやれる?の質問に。「I will」と陽気だった。

 3打席目でいい感じの球をヒットにしてしまったあと、ほえるように自分を責めた。
 第4打席。相手の投手コーチがマウンドに向かう。得点差は1点。普通の試合なら、敬遠もあり得る。しかし最終戦、もう勝敗は関係ないのだ。マウンドに向かった投手コーチに、相手方ロッテファンが「勝負をしろ」のブーイングを自チームに送った。試合前にライトスタンドを尋ねたときも、ロッテファンは「うちは真っ向勝負。逃げたり、はぐらかしたりしない」と言い切っていた。
 ロッテバッテリー、真っ向勝負。
 カブレラは三球三振に倒れた。
 それが最終打席となり、38年ぶりの日本記録更新は、二年連続の外国人選手の挑戦にもかかわらず、またもお預けとなった。
 1番に据えた伊原監督や、カブレラをリラックスさせようと必死に気を遣う金森コーチ。西武のチームメイトはもちろん、相手チームもそうだ。皆が彼の記録達成に力を添えた。しかしならなかった。

 私は、ロッテのファンが、西武ファン以上にカブレラと勝負することを望んだことを、熱くなるような嬉しい気持ちで見ていた。それはカブレラのホームランが見たいというファンの心理以上に、自分たちのチームに誇りを持っていてほしいという思いがあったのではないかと思う。そのファンとしての自分のチームを信じる気持ちが、とてもかっこよかった。
 誰よりもその記録を達成したかったカブレラが、さすがに肩を落として千葉マリンスタジアムを出た瞬間、待ちかまえたファンが大きな拍手と声援を送った。陽気なカブレラもふと心が熱くなったのだろう。「あのファンを見てどう思いますか?」と聞いたら「ロッテファンは僕をフォローしてくれた。感謝している。本当に感謝している。僕は20年野球をやってきた。台湾でメキシコでアメリカで、でも日本のファンが一番。日本のファンは最高だ」と声を張り上げた。

 記録達成はならなかったけれども、この最終戦は真摯なロッテファンも含めて、球場全体がカブレラの56号のために祈った試合だった。いい試合に立ち会ったと、好天の秋空の下爽やかな気持ちでいた。

前のページに戻る page 1/1 ページの先頭に戻ります
(c) Osaka City Sports Promotion Association. All rights reserved.