松坂投手に60億円もの値段がついたそうですが、どうしてメジャーリーグのチームは、そんな大金を出すことができるのですか?
質問者:「井川Kさん /13歳」

.世界のスポーツをめぐるビジネスは、国際経済に影響を与えるほど、大きな規模に及んでいる。

文・渡辺功

◆60億円を取り戻せる見込みがあるボストン・レッドソックス

 ほかのチームに邪魔されず、松坂大輔投手に入団してもらうために交渉する権利を、ボストン・レッドソックスが5,111万ドル(約60億円)もの大金で手に入れたのをはじめ、井川慶投手には、ニューヨーク・ヤンキース2,600万ドル(約30億円)。岩村明憲選手には、タンパベイ・デビルレイズが推定450万ドル(約5億4千万円)を支払って、交渉の権利を獲得した。この冬、MLB(メジャーリーグベースボール)の球団が大金を投じて、日本人選手を獲得する移籍が相次いだ。
交渉する権利を得るため、選手が所属した日本の球団に払うこのお金に加え、選手本人との契約金や年俸を合計すると、ひとりの選手を獲得するために、レッドソックスやヤンキースは100億円単位のお金を動かしたことになる。日本のプロ野球だと、1チーム約60人いる日本人選手の1年分のお給料を全部足しても、約23億2千万円(06年12球団平均。プロ野球選手会発表)だから、つまり100億円となると、日本のプロ野球だと5チームに所属する日本人選手全員が、1年間に貰っているお給料と同じくらいの金額になるわけだ。金額の途方もなさに、圧倒されるね。
だけどMLBの球団経営者たちはけっして赤字覚悟で、こんな莫大なお金を注ぎ込んだわけじゃない。レッドソックスなら、松坂投手の日本やWBCにおける投球内容を入念に調査。過去の日本人メジャーリーガーが残した実績を照らし合わせて、どれくらいの成績を残せそうなのか。詳しく計算している。さらには、イチロー選手や松井秀喜選手が入団したことで、マリナーズやヤンキースがどれだけ日本人の観客を増やし、ユニフォームやTシャツといった球団関連のグッズを売ったのか。どのくらい日本向けに、球団を宣伝する効果があったのか。新しいスポンサーを獲得したり、試合を放送する権利を日本のテレビ局に販売して、どれほど収入を増やしたのか。松坂を獲得すると、どれくらいの利益がレッドソックスにもたらされるのかを分析、検討した結果、「100億円を出す価値がある」と判断したんだ。100億円を支払っても、100億円以上の利益を取り戻せる可能性が高いと見込んでいるんだね。

◆ここ10年で、大きく様変わりしたスポーツにまつわるビジネス

 これほどの大金を支払って、さらにそれ以上の利益を手にすることが出来るくらい、MLBにまつわるビジネスは、毎年拡大し続けている。
95年以降、MLB全体の収入は毎年10%ずつアップ。06年の観客動員は約7600万人と、最多記録を3年連続で更新した。MLB機構は全米ネットのテレビ局と、試合放映に関する権利を7年間約30億ドル(約3420億円)で契約。その収入は30球団に分け与えられている。また、各球団は個別に地元のテレビ局と契約して、それぞれ放映権料を得ている。
そのほか、MLBは世界各国にも試合放映権を販売。日本のテレビ局からだけで、年間総額60億円と言われる契約料を得ている。試合をインターネットで配信して、そこに載せる広告の料金といった、新たな収入もある。なかには、地元の銀行や証券会社と提携。球団のファンクラブ会員に、クレジットカードなどの、さまざまな商品を販売する球団。まるで超豪華マンションの一室のような'特別ルーム'を100室も球場に造って、年間数千万円で販売するような球団もあるんだ。
スポーツチームの経営は、ここ10年ぐらいで様変わりした。金融業、不動産業・・・。スポーツを利用したさまざまなビジネスを展開することで、収入を拡大。膨らんだ収入を、スポーツの人材や施設に投じることで、さらに多くの利益を獲得する。スポーツチームの経営者は、国際化と多角化を推し進める大企業へと生まれ変わっているんだ。
この動きは、MLBだけの話じゃない。欧州サッカーのビッグクラブ、マンチェスター・ユナイテッドやバルセロナなども、莫大なお金を動かして、アジアやアフリカへと商売の場所を広げている。欧米では「プロ・スポーツ」というビジネスで動くお金が、年間20兆円もの規模に成長。国際経済に影響を与えるほどの、巨大な産業になっているんだ。

◆スポーツビジネスで、遅れをとった日本

 Q10Q23でも話したように、明治時代からスポーツを「教育(体育)」に利用してきた日本では、「スポーツは神聖なもの」「スポーツでお金を稼ぐのはいやらしいことだ」とする考えが、いまだに根強くはびこっている。同時に、「親会社の宣伝」のためにスポーツを行ってきたから、「宣伝になれば、スポーツ(のチームや興行)は赤字でも仕方ない」「会社がもうかれば、スポーツはの発展なんて関係ないほうがよい。」と考えられてきた。
「スポーツ」と「ビジネス」は、まるで結びつけられずにきたんだ。結果的に、「スポーツ・ビジネス」の分野で、日本は世界に大きな差をつけられてしまっている。
 スポーツには、人種や民族、宗教や国の仕組みの違いを越えて、世界中のひとびとの心を動かす力がある。政治、社会、商業、文学、芸術…。世のなかのありとあらゆることに、スポーツは関連づけられる。新しいビジネスの生まれるチャンスが、無限に広がっているんだ。すごいピッチングやシュート。奇跡的な大逆転のゲームを見たりすれば、人間の持っている可能性や素晴らしさに気づかされ、生きる力へつながっていく。未来に向けて、スポーツの価値がますます高まっていくのは明らかだ。
 だからこそ、国や自治体、スポーツの団体などが知恵を絞り、「スポーツ・ビジネス」を大きくして、スポーツを利用して得た利益をスポーツに戻して、さらにスポーツを発展させなければならない。それには、具体的にどうすればよいのか、きちんとした将来像(ヴィジョン)を示す必要があるんだ。
もし、そのようなスポーツ・ビジネスが展開できなければ、多くの才能ある選手たちやビジネスの才覚あふれた経営者たちは日本を離れ、スポーツとともに、より幸せで豊かになった国々(ヨーロッパやアメリカ)へ、移り住んでいくことだろう。

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