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.タイガースをはじめ、プロ野球チームは「みんなもの」。一個人や一企業が、好き勝手に支配したり、利用したりすることは許されない。
文・渡辺功
◆タイガースの株を上場すれば、もうかる村上ファンド
元通商産業省(いまの経済産業省)官僚だった村上世彰(よしあき)さんが率いる投資ファンド(通称=「村上ファンド」)が、阪神タイガースの親会社「阪神電鉄株式会社」が発行する株の約4割を取得。「タイガース球団の株式上場」を提案して、タイガースファンやプロ野球界に波紋を広げている。
「投資ファンド」とは、お金を増やしたいと思っている人や企業から集めたお金を元手に、他の会社の株式を売買してお金もうけをする機関だ。うまくもうかったら、もうけの一部を自分でもらい、お金を出してくれた人たちには、預かった金額に上乗せしてお金を返す。
もちろん、いつももうかるとは限らず、お金を出した側が損をすることもある。今回、村上ファンドは阪神電鉄の株を買い集めた。株の値段は、発行した企業の人気で上下する。買った時より高い値段で株を売れば、村上ファンドはもうかるわけだ。
じつは、タイガース球団も株式会社なんだ。でも「株式会社阪神タイガース」の株はすべて阪神電鉄の持ち物で、一般には売り出されていない。村上ファンドは、阪神電鉄が所有するタイガースの株を売り出して、誰もが自由に取引できるようにしようと言っている(これを「株式の上場(じょうじょう)」という)。
人気球団のタイガースの株なら、大勢の人が買いたがって、きっと高い値段がつく。そうすれば、売った阪神電鉄ももうかるはずで、その結果、阪神電鉄の株価が上がり、大株主の村上ファンドももうかるだろう、と考えたんだ。
◆親会社が所有し、さまざまな利益を得ている日本のプロ野球チーム
Q34やQ39でも話したけど、ほとんどのプロ野球チームの経営は、赤字状態だ。けれど、球団を持つ企業は大きな恩恵を得ている。
たとえば、オリックスは球団を持つまでは、あまり有名な会社じゃなかった。でも、今ではみんながオリックスの名前を知っている。四国の食肉会社だった「徳島ハム」は「日本ハム」と改名し、買い取った球団にその名をつけ、会社の知名度を大幅にアップさせて、全国に販売網を広げる大企業に成長した。
阪神電鉄だって、走る電車の路線は45kmほどしかない小さな会社なのに、10倍以上の路線を持つ近鉄や、3倍の路線を敷く西武、南海、阪急と並ぶ大鉄道会社のような印象があるのは、タイガースのおかげだ。
新聞やテレビがプロ野球の話題を取り上げるたびに、親会社の名前が球団名として、紙面や電波に載ることになる。宣伝広告料に換算すれば、何億円にも何十億円にも相当する。親会社の販売促進キャンペーンに、試合チケットや選手のサイン会を利用したりもしている。球団は、親会社の利益に大きく貢献しているんだ。
企業が親会社として球団を所有し、球団の活躍を通して知名度を高めることで、多くの利益を得てきたのが、日本のプロ野球なんだ。この状態は、親会社やその株主の利益のために、タイガースの株を上場しようとする村上ファンドの考え方と、何も違わないといえるだろう。
◆スポーツチームの株を上場すると、どうなるのか。
91年、イングランドの人気サッカークラブ「マンチェスター・ユナイテッド」が株式を上場した。すると、多くの株が売れ、豊富な資金を調達することができた。そのおかげで、次々とスター選手を獲得。老朽化の進んだホームスタジアムの改修工事もできたんだ。
ところが今年、アメリカの大富豪が「マンチェスター・ユナイテッド」株を100%近く買い占めてしまった。しかも、この大富豪は買収費用の大半を借金で用立てており、もし返済のメドが立たず、二束三文で株を売り払うようなことにでもなれば、クラブの価値は大暴落する。
株を上場すると、株主になったファンの意見がチームに反映されるようになるだろう。が、マンチェスター・ユナイテッドの例のように、一部の大金持ちに支配されてしまう恐れも出る。そのうえ、Aチームの株主が、株価を吊り上げようとして、対戦相手のBチームにわざと負けるよう働きかけるかもしれない。スポーツチームの株式の上場には、良い面と、悪い面の両面があるんだね。
◆タイガースは誰のもの?スポーツは誰のものなのか?
今年11月4日。タイガース球団の株式上場案が浮上してから初めてとなる、プロ野球オーナー会議が開かれた。オーナー会議とは、12球団のオーナーたちが集まって、プロ野球界のさまざまな決め事をする会議だ。けれど、今回の会議では、球団株の上場についての具体的なルールづくりはおろか、プロ野球チームの株を上場することが、どんな意味を持つのかといった基本的なことに触れることもなく、問題を先送りにして閉会した。
恐らく、何べんオーナー会議を繰り返しても、結論は出ないだろう。オーナーたちの多くは自分のチームのもうけばかりを考えて、将来プロ野球界、日本の野球界全体はどうあるべきなのか。具体的な姿を描けていないからだ。
野球だけでなく、スポーツとは、人々の心を豊かにしてくれるみんなの大切な財産だ。そんなスポーツを運営する組織なのだから、当然、プロ野球チームだって「みんなのもの」のはずだ。ならば、一個人や一企業が所有したり、利用したりするべきではないよね。
村上ファンドの利益のために株を上場するタイガースと、阪神電鉄が所有するいまのタイガース。どちらが正しいのか、と考えても、答えは出ない。どちらのタイガースも、スポーツ本来のあるべき状態、つまり「みんなのもの」ではないからだ。
いま考えなくてはいけないのは、村上ファンドや阪神電鉄がどうすれば、もうかるのか。ではなく、「みんなのタイガース」にふさわしいのは、どういった組織なのか、ということだ。さらに大切なのは、オーナーや村上ファンドといった運営する立場の人だけじゃなく、選手や監督など、実際にグラウンドでユニフォームを着ている人たち、そして、ファンの三者が一緒になって、タイガースのあるべき姿を考えることなんだ。
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