日本の女子フィギュアスケートの選手たちは、どうして、あんなに強いんですか?
質問者:「ミキティ大好き /11歳」

.地域の力、協会の試み…。さまざまな要素が重なった日本女子フィギュアの「黄金時代」。でも、将来的には、心配なこともある。

文・渡辺功

◆フィギュアは日本人向き?

 今年3月、モスクワで開かれた世界選手権ではメダルを獲得できなかったけれど、日本の女子フィギュアの実力は、間違いなく世界のトップレベルだ。国際スケート連盟が発表した今シーズンの世界ランキングを見ると、1位は荒川静香選手。2位には安藤美姫(みき)選手、そして村主章枝(すぐりふみえ)選手が3位と、日本人選手が上位3位を独占。5位にも恩田美栄(よしえ)選手が入っている。トリノ五輪を来年に控えて、日本の女子フィギュアは、ほかの国の関係者から「誰が出場してもメダルは確実」「驚異的な集団」なんて、呼ばれているんだ。 
 日本選手が高く評価されている理由のひとつに、高度なジャンプの技術が挙げられる。世界の女子で、安藤美姫選手ひとりだけが、4回転ジャンプを成功させているし、トリプルアクセル(3回転半)のジャンプを、世界で初めて跳んだのも、日本の伊藤みどり選手だった。「フィギュアの華」と呼ばれるジャンプ。外国人選手にくらべて、小柄な日本人選手の身体が、より高いジャンプと、より速く回転するのに向いているんだね。

◆フィギュア王国・愛知

 ところで、伊藤選手も、安藤選手も、恩田選手も、それに、中学2年生の世界ジュニアチャンピオン浅田真央選手も、じつは、彼女たちはみんな「愛知県出身」なんだ。校庭や湖に、氷が張る北海道や長野県と違って、愛知県にスケートが出来る場所が、とくにたくさんあるわけじゃない。なのに、どうして優秀なフィギュア選手が、愛知から、次々と育っているのだろうか。
 考えられるのは、良いお手本が身近にいたことだ。伊藤選手のような憧れの先輩選手と同じリンクで滑っている子どもたちは、遊びながら彼女を真似して自然とジャンプを身につけていく。ひとりの子が、ジャンプを跳べるようになると、自分も負けないようにと練習する子が出てきて、次第にジャンプできる子が増えていく。そうやって、地域全体のレベルが上がっていったんだ。伊藤選手から、安藤選手や恩田選手、そして浅田選手へ。憧れが、次の世代の選手を育てていく良い循環が、愛知に出来ているんだ。
 同じことが、指導者やスケートクラブにもあてはまるかもしれない。伊藤、恩田両選手を育て、現在は浅田選手を指導する山田満知子さんというコーチが、愛知県にいる。山田コーチに憧れたり、負けたくないと思う指導者やクラブが、より良い指導方法や環境を、選手に提供しているのだろう。

◆日本スケート連盟のとりくみ

 とはいえ、これまでに日本選手が、五輪のフィギュア種目で獲得したメダルは、わずか1個。92年のアルベールビル五輪で、伊藤みどり選手が獲得した銀メダルだけなんだ。
 本格的にフィギュアスケートに取り組むためには、とてもお金がかかる。本格的な練習をするためには、スケートリンクを丸ごと借り切って練習しなければならない。みんなが、スケート場に遊びに行ったときの入場料や貸しスケート代とは、くらべものにならないぐらい高い料金が必要だ。そのため日本では、フィギュアスケートが、ごく限られた人だけのスポーツになっている。競技を始められる人が少なければ、優秀な選手が育つチャンスが少なくなるのは、当然だよね。
 そこで、日本スケート連盟は、91年から、全国から瞬発力や柔軟性に優れた8歳から12歳までのこどもたちを集めて「新人発掘合宿」を開いているんだ。この合宿を通じて、さらに選抜された選手が国際大会に派遣される。才能ある選手に、幼い頃から国際舞台での経験を積ませて、長期的な強化をはかっているわけだね。荒川静香選手は、この合宿の一期生なんだよ。
 日本のフィギュアが、世界のトップレベルに立ったのは、この取り組みの成果とも言えるだろう。

◆国際性の大切さと、消えていくスケートリンク

 これまでにないほど注目を集めているフィギュアスケートだけど、不安なこともある。この冬から、フィギュア競技には、新しい採点方式が導入された。この前の世界選手権でも話題なったけど、日本は、この方式に反対していたんだ。失敗した時の減点が厳しく、日本選手が得意とする高度なジャンプに、挑戦しにくくなるからだ。
 また、シニアの大会でも入賞できるほどの実力がある浅田真央選手は、来年のトリノ五輪に出場できない。五輪のフィギュアは、前の年の6月末までに、15歳にならないと出場できない年齢制限があるんだ。今年の9月に、15歳の誕生日を迎える浅田選手は、2010年のバンクーバー五輪まで、五輪出場を待たなくてはならない。
 こういった国際ルールや審判員の採点で日本選手が不利にならないように、抗議をしたり、堂々と交渉できる力が、日本のフィギュア界は、まだ充分じゃないんだ。せっかく選手が素晴らしい演技をしても、ルールや判定に泣かされてしまう可能性がある。選手の実力に遅れをとらないように、日本のスケート連盟の人たちが、世界のフィギュア界をリードしていく必要もあるんだ。 

 もうひとつ、心配なのは、全国各地でスケートリンクがどんどん減っていることだ。スケートリンクには、広い土地が必要だし、氷を維持するための冷房代も高くつく。経済不況のため、スケートリンクは次々と閉鎖されたり、ほかのレジャー施設に造りかえられている。大阪の高槻市にあったスケートリンクも、この冬に閉鎖されてしまった。王国の愛知県だって、夏も休まずに営業しているスケートリンクは、ふたつだけだ。
 ミキティ(安藤美姫)を大好きなあなたが、フィギュアをやってみたいと思っても、近所にスケートリンクがなくて、あきらめなくてはならないかもしれない。
 もっとたくさんの人が、実際にフィギュアを楽しめるような環境をつくること。もし、それができたなら、きっと第2、第3のミキティが誕生して、日本のフィギュア界の「黄金時代」は、続いていくに違いない。だが、フィギュアスケートを、ひと握りのお金や才能に恵まれた人だけのものにしておけば、いまのフィギュア人気は、いつしか、忘れさられてしまうだろう。

参考文献「フィギュアスケートの魔力」(梅田香子・今川知子/文春新書)

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