「メジャーリーグが日本で開幕戦を行ったのは、なぜですか?」
質問者:「松井イチロー さん/14歳」

ベースボールを世界中に広めるためだ。

◆オリンピック参加に消極的なメジャーリーグ

 野球やソフトボールがオリンピックの種目からはずされるかもしれない、というニュースを聞いたことがあるかな?
 IOC(国際オリンピック委員会)は、その理由として「国際的に普及していない」「施設(主に野球場)建設が負担になる」といったことをあげている。国際野球連盟(IBAF)に加盟しているのは110を超える国や地域だから、オリンピック憲章が定める「男性によっては(男性の行う競技ならば)、4大陸で少なくとも75カ国で広く行われている」とする条件を、数字上は満たしているんだ。でも、それらの国や地域のほとんどは、たとえ五輪に出場できても、強豪チームとはまともに試合ができるレベルに至っていないのが現実だ。
 以前、バスケットボールも「国際的に普及していない」状態にあったんだけれど、オリンピックに、NBA(アメリカのプロバスケットボールリーグ)のスーパースターたちを集めたドリームチームを参加させることで、バスケットボールの魅力が伝わり、世界中に広まったんだ。
 バスケットボールと同じように、メジャーリーグもドリームチームを出せばと思うよね。でも、メジャーリーグの組織は、メジャーリーグの選手を五輪に出場させることには消極的なんだ。それは、オリンピックの行われる期間が、メジャーリーグのシーズン後半の優勝争いで一番盛り上がる時期と重なることと、オリンピックの厳しいドーピング検査を受けることになると、それに引っかかる選手が多くいるからといわれている。

◆自分たちのスポーツを世界に広げたいという希望を持つアメリカ

 じゃあ、メジャーリーグが野球を世界に広めるつもりが無いかというと、そうではないんだ。もともと、アメリカには、自分たちのスポーツを世界に広げたいという希望がある。
 アメリカで生まれたスポーツのうち、前に書いたようにバスケットボールはオリンピックを利用している。アメリカンフットボールは、ヨーロッパにアメフトを広めるため、プロリーグのNFLの下部組織である「NFLヨーロッパ」を作り、人気を広めているんだ。そして野球も、世界に人気を広めるようとする計画を立てている。
 その計画のひとつが、日本での開幕戦なんだけれど、では、どうしてメジャーリーグは、世界中に人気を広めようと考えているのだろう?
 メジャーリーグでは、1961年のアメリカン・ナショナル両リーグあわせて16球団から、徐々にチームを増やしてきて、今では、両リーグあわせて30球団にもなっている。でも、それだけ増えると、たくさんの選手が必要になるし、いい選手の年棒はどんどん高くなり、経営が苦しいチームも出てきしまう。さらに、選手の質も落ちてしまうよね。そこで、メジャーリーグは、中南米をAAA(トリプル・エー=メジャーのすぐ下のクラス)、アジアをAA(ダブル・エー=AAAの下のクラス)、ヨーロッパをA(シングル・エー=AAの下のクラス)と考えて、世界中にベースボールを広め、世界中から野球選手をスカウトしようとしているんだ。実際、近いうちに「世界ドラフト」(世界中の野球選手をメジャーリーグの球団が指名して獲得する制度)を実行しようと考えているぐらいなんだ。
 そういうメジャーリーグの「世界戦略」のなかで、野球がとても盛んで、野茂やイチローや松井のような選手の活躍でメジャーリーグの人気が出ている日本で開幕戦を行い、日本でのメジャーリーグ人気をより盛り上げようとしたんだ。
 さらに、メジャーリーグが中心となって、サッカーと同じような国別対抗戦の「ワールドカップ・ベースボール」を開こうと計画している。メジャーリーグが中心に計画を進めれば、オリンピックに関係なく、メジャーリーグにとって都合のいい時期に開催できるし、ドーピングの問題もオリンピックに比べて解決しやすい。そうやって、超一流のメジャーリーガーを参加させて、素晴らしいプレーを見せれば、オリンピックでベースボール競技がなくなってしまっても、十分に世界中で人気を得られると考えているのだろう。そして、メジャーリーガーが国別に闘うワールドカップよりも、いろんな国のメジャーリーガーがメジャーリーグのチームに分かれて闘う現在のワールドシリーズのほうが「世界の頂点」として存在しつづける……。
 まさに、メジャーリーグの、メジャーリーグによる、メジャーリーグのための戦略だ。
 でも、本当にそれでいいのかな? 野球の人気は、それで、ほんとうに世界中に広がるのだろうか? とても参考になる例としてサッカーがあるんだ。

◆かつてはベースボールと同じ状況だった、サッカー

 昔、サッカーは、イギリス(特にイングランド)を中心にしたスポーツだった。イングランドには、19世紀後半に組織されたフットボール・アソシエーション(FA)という組織があって、「FAカップ」というフットボール・アソシエーション主催の大会で優勝することが「世界一」とされていた。だから、優秀な選手はイングランドのリーグに参加して、FAカップを目指したんだ(優秀な選手が世界中から集まって、「ワールド・シリーズ」での優勝を目指す現在のメジャーリーグによく似ているよね)。
 それに対して、フランスが、イングランド中心のままでは良くないと、国際サッカー連盟(FIFA:フィファ)を組織し、ワールドカップを作った。その結果、ワールドカップを目指して、世界中の国々が競い合い、いろんな国々の国内リーグも盛んになっていくことで、サッカーの人気が世界中で高まり、サッカーは世界中でプレーされ、最高に人気のあるスポーツとなっていったんだ。

◆野球だって、世界的に広がる可能性のあるスポーツだ

 野球とサッカー。ボールを使うことは同じでも、全然違うスポーツだよね。でも、この2つのスポーツにはとても大きな共通点があるんだ。
 サッカーは背が高くても、低くても、やせていても、太っていても、誰もが体格の差に関係なく、ボールを扱う足の技術で、競うことができるよね。野球には、用具をそろえるのに少しばかりお金がかかるという難点があるけど、プレイするときの体格差はあまり関係ないよね。
 バスケットボールやバレーボールのように特別に身長が高くなくても、アメリカンフットボールのように体がものすごく大きくなくても、野球では誰もが活躍できる可能性がある。つまり、世界中に色々な人々がいて、体格も違うけれど、野球はサッカーと同じように、その体格差をこえて、みんなで楽しめるスポーツなんだ。だから、野球もサッカーのように、世界的に広がる可能性は高い。
 それだけに、アメリカだけが野球の中心になって、メジャーリーグのために野球を広めるのではなくて、アメリカでも、アジアでも、アフリカ、ヨーロッパでもそれぞれの国や地域の特徴を持った、世界中の人に愛されるスポーツとして、野球が広まってほしい。そのために、日本ができること、するべきことはたくさんあるはずだ。
 野球が世界的人気を得たときは、世界中がサッカーに負けないぐらい熱狂するワールドカップ・ベースボールが行われているに違いない。

<<しつもんのいちらんにもどる