「プロスポーツには、野球に代表される企業スポーツとサッカーに代表される地域スポーツがあるとよく耳にしますが、この二つの形態の違いを分かり易く説明していただけないでしょうか。※サッカーは企業スポーツではないと言いますが、スポンサーがついてるから企業スポーツの一種ということにならないのでしょうか」
質問者:「最後のドーハ戦士さん/25歳」

スポンサーがついているからと言って、「企業スポーツ」とは言えない。「企業」が所有する企業スポーツと、「スポーツする人」が主役の地域のクラブ・スポーツは、対極と言っていいほど異なる存在だ。

◆企業スポーツは企業のため スポーツする人が主役なのが本来のスポーツ

 「企業スポーツ」とは、企業がスポーツ・チーム選手の所有者であるということだ。ジャイアンツは「読売新聞社」、タイガースは「阪神電鉄」といったように、また、ラグビー・チームの「サントリー」や「NEC」のように、チームは「親会社」と呼ばれる企業によって所有されている。そして、企業(親会社)の利益や宣伝を目的としている。だから、企業の経営が悪化すれば、チームが解散に追い込まれてしまうことだってある。実際にここ10年間で廃部、活動休止になった企業チームは200を超えるんだ。
 また、ラグビーブームが起これば、もともとあった他のスポーツチームを廃部にして新たにラグビーチームを作ることだってあるだろう。企業の利益のためなら何でもありえてしまう、企業がスポーツのすべてを支配するのが、企業スポーツなんだ。
 でも、本来のスポーツというのは、「スポーツ」する人が主役でなければならないね。スポーツをする人々がスポーツを主催し、チームを組織し、選手のマネージメントを行うのが普通じゃないかな。そのためには資金が必要になってくる。そこで「スポンサー」という存在があるんだ。
 スポーツ・チームは、スポンサーに対して、スタジアムの看板にスポンサーの広告を入れたり、ユニフォームの背中や腕に会社のロゴマークを入れるなどの条件で、お金を得る。また、テレビやラジオから試合の放送権を渡すことで、資金を調達する。スポンサーによる資金で経営を支えているのだけれど、あくまでチームを運営するのは、チームにある。チームが存続するか否かなんて、スポンサーが口を出すことではない。そこが、企業スポーツとは違うところだ。
 Jリーグが「地域クラブ」と呼ばれるのは、地域の企業や自治体、市民が集まってスポンサーとなり、資金提供を行っているからなんだ。「鹿島アントラーズ」「ガンバ大阪」といったふうに、チーム名に地域の名前がつくのもそのせいだね。最初10チームでスタートしたJリーグも、いまではJ1とJ2に分かれ、2リーグあわせると28チームにまで発展した。それは、自分たちの地域のスポーツチームを持とうという動きが広まってきているからなんだ。

◆なぜ日本には企業スポーツが存在するのか?
 とは言うものの、日本では企業スポーツがまだまだ主流。アメリカや、欧米などのスポーツ先進国は、すべて地域スポーツとして成り立っており、「企業スポーツ」という形態が存在するのは、日本のほか、韓国・台湾のみという状況にも関わらずだ。
 なぜ、企業スポーツというのが日本に根付いたのだろうか?
 それは、日本に「スポーツ」を受け入れる環境がなかったことにあるんだ。
 明治時代にスポーツが輸入されたとき、日本では、スポーツの受入先を学校教育の場に持ち込んだ。つまり、スポーツは体育として「学校で行われるもの」という考えが成り立ってしまった。オリンピックをめざす一流選手でさえ、大学院に進んだり、学校の職員として就職したり、企業に就職した後、卒業生として学校の施設を借りたりして、スポーツをする場を確保しなければならなかった。
 その考えは戦後になっても受け継がれてしまうのだけど、そもそもスポーツ選手をすべて学校で受け入れるというのは無理な話。スポーツ人口の急増とともに、施設だって足りなくなるし、学校では支えきれなくなるよね。政府にしたって、経済の復興を最優先していたから、スポーツを充実させるという施策などは、思いつきもしない。
 そこで選ばれたのが、政府が経済で育てた「大企業」の存在だった。経済的に余裕が出てきた大企業は、社員の福利厚生のためにという名目で、体育館や運動場などを作り始めた。当然その社員しか参加できないのだけど、そのなかで、アマチュアで活躍していた有名な選手を会社に引っ張ってくれば、会社の宣伝になると考えたんだ。全ては、会社の名を売るために。こうして、次々にスポーツチームが作られ、企業スポーツへと成長してしまったというわけだ。

◆企業スポーツか 地域スポーツか
 企業のためのスポーツと、スポーツする人のためのスポーツ。
 さて、どちらに未来があるだろう?
 Jリーグの地域スポーツには「スポーツ自体の発展」と言う目的もある。チームの優勝だけが目標ではなく、スポーツする人を育てようという取り組みだ。以前にも書いたけれど、Jリーグの各チームは子どもたちのためのサッカーチームを持っているんだ。ガンバ大阪は高校生(ユース)・中学生(ジュニアユース)・小学生(少年サッカー)3つのサッカーチームがあり、同じコーチのもとで子どもたちが元気にサッカーを楽しんでいる。さらに、サッカー以外のスポーツの普及にも取り組んでいる。アルビレックス新潟では、バスケットボールチームを運営したり、モンテディオ山形では「スポーツ山形21アスレチッククラブ」をつくって女子駅伝などを中心に活動している。
 一方、企業スポーツはあくまで宣伝が主体だから、日本のスポーツ全体を考えているわけではないね。今年、優勝するかしないかが最大の関心事。ジュニアユースのチームは当然ない。ペナントレースで勝つことが大事だという理由で、オリンピックに選手を出場させるのを拒むチームだってあった。ラグビーでも、リーグ戦での優勝(国内での親会社の宣伝)のほうが大事だからという理由で、日本代表チームに選手を入れないチームまであった。
 企業スポーツか?地域スポーツか? 
 ゴジラがアメリカに上陸し、プロ野球の人気の危機が叫ばれる今、企業自身がそろそろ答えを出す番だろう。

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