1999/11/30(TUE)

 この仕事をしていると、目から鱗が落ちる瞬間がある。
 ドゥンガ。去年までジュビロ磐田のキャプテン。ブラジルに生まれ、歩き出すと同時にボールを蹴り始める。17歳でプロ。ブラジル、イタリア、ドイツのプロリーグで活躍。ブラジル代表3回。キャプテンとしてワールドカップ優勝も果 たした。Jリーグ入りしたばかりのジュビロを2年でチャンピオンに導いた。
 ピッチの上での剥き出しの闘争心。味方がミスをすると鬼の形相で声を荒げた。深く刻まれた眉間のしわ。近寄りがたい威厳。去年日本を去る前に会えることになり、私は会える嬉しさと少しの恐怖でインタビューの2週間くらい前からドキドキしていた。
 普段着の彼はなんと優しいブラジル人であったことか。我々に気を遣い、疲れているにもかかわらず丁寧に答えてくれた。そしてその言葉ひとつひとつの何と強く深いことか。インタビュー初めから私は取り憑かれた。
 中でも私が忘れられない言葉があった。
 
「勝たなければいけない。勝負はたとえそれがどんなものであれ、勝たなければいけない。ただやってはいけないんだ。Jリーガーの中には、サッカーをやればそれでいいと思っている選手がいる。違う。俺達は勝つためにやっているんだ。」

「日本人が私から受けた最大の衝撃は『口に出して言う』ことだと思う。日本人は時と共に物事は自然に解決されると思っている。でもサッカーは90分しかない。間違いをそのときその瞬間訂正しなければ負けてしまう。負けてからああだこうだ言ってもしかたない。そのときに言わなければいけないことは言うしかなく、フィールドのなかで『ごめんなさい』だの『すみません』だの言っても仕方がない」(直訳)
 
そう、私は次の言葉がでないほど衝撃を受けた。というより、自分がつかれたような気がして、どうしていいかわからなかった。
 私はどんなときも勝負しているだろうか。負けることが怖くて勝ちから逃げる、そんな生き方をしているのではないか。「口に出して言う」ことをすることも、されることからも逃げているのではないか。なるべく波風を立てずに、物事は誰かがあるいは自然に解決してくれるされるものだろうと、逃げていないか。責められるのがいやでいとも簡単に「ごめんなさい」や「すみません」を連発していないか。つまり、自分が本当の意味でよりよく、より向上するために、物事を進めているだろうか。ただその場がうまく収まることだけに執心しているのではないか。そして自分を小さく弱くしていないか。
 ドゥンガと1時間あまり話した後、すっかり私は気力を吸い取られた感じでいた。同じ時代に生きる同じ人間でありながら、この強さの違いよ。それを感じている私を彼はきっと見抜いていた。
 「大事なことは自分を信じること。どんな状況にいても、自分は必ず上に上がれると信じること。いつでも自分を冷静にみつめて。ね。」 次に会うときには彼にそんなことを言われないくらい強くなっているだろうか。
ある意味、見透かされその差を歴然と感じさせられるインタビュー。
こんな瞬間があるから取材というこの仕事を愛してしまうのだ。と思う。
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