アリーナフットボールの妙

冒頭から私事で恐縮だが、筆者はこの6月でオレゴン大学の修士課程を修了し、現在はカリフォルニア州サンディエゴに拠点を移した。サンディエゴのマイナーリーグアイスホッケーチーム「サンディエゴ・グルズ」で働く事になった。大学院生活の傍らで綴ってきたこのコラムだが、これからはより実世界に近い立場で色々な事をお伝えしていければと思っている。そして、これまでオレゴンという土地柄少々限られてきたスポーツ観戦の機会だが、サンディエゴという大都市において更に多くのスポーツに触れ合える事を楽しみにしている。

今回は、数日前に観戦してきたアリーナフットボールについて書きたいと思うのだが、その前に日本ではアリーナフットボールというスポーツがどれ程認知されているのだろうか。

アメリカでNo.1の人気を誇るフットボールを、フェンスに囲まれた半分の大きさの屋内フィールドで行うものと言えばいいだろうか。パスやランのプレーを駆使して「距離」を稼ぐ事を最大の目的とするフットボールのフィールドを狭くしたわけだから、アリーナフットボールでは当然得点の機会も増える。アリーナという狭い空間で行われるため、選手のぶつかり合いなども臨場感が増す。簡単に言えば、この辺が特徴であろうか。

このアリーナフットボールを司る組織、それが1986年にスタートしたAFL(Arena Football League)である。数多くのプロスポーツリーグが存在するアメリカにおいて比較的新しい存在のこのAFLであるが、実はここ数年ビジネス的な側面から見ると驚くべき勢いで成長を遂げてきている。

2003年のシーズンには11,400#人の一試合平均観客動員を記録し、年間70試合以上全国中継されるテレビの視聴率は1.6%#に上る。この視聴率は、北米4大スポーツに数えられるNHL(National Hockey League)を凌ぐものである。

その成長の影にはAFLが打ち出した様々なユニークな戦略があるのだが、最も象徴的なものはリーグそのものの商品としての位置づけ、ビジネス用語を使ってしまえば市場ポジショニングの仕方であろう。

AFLはNFLのマイナーリーグだと思っている人は少なくない。そうでなくとも、NFLに次ぐ第二のフットボールリーグだというイメージを拭い去るのは容易ではない。実際問題、NFL選手はAFL選手の100倍近い年俸を手にしており、一流のフットボール選手はまずNFLを目指すのが当然だろう。

そんなAFLの市場ポジショニングは、コミッショナーのデビット=ベーカー曰く「高級ホテルのようなサービスを、ディスカウントショップのような値段で提供する」というものである。

この代表的なものが選手への近づきやすさだろう。試合前と試合後、観客は選手から気軽にサインをもらう事ができる。時には、ハーフタイムにロッカールームに引き上げる選手からサインをもらう事もできる。NFLでも出来ない事はないが、それができる席を確保するには何万、時には何十万円のチケットを買わなければならないだろう。しかし、AFLではこうしたシートが実に手ごろな値段で買う事ができ、席によっては映画に行くより安い料金で入場する事ができる。

ここにはとても書き切れないが、様々な経営努力をリーグ主導で行った結果、観客数は大幅にアップ。テレビの視聴率も上昇し、次々に一流企業とのスポンサー契約を結んできた。数年前は50万ドル(約5500万円)と見られていた1チームの資産価値も、現在では1800万ドル(約19.8億円)に上ると言われている。こうした成功を目の当たりにし、現在ではNFLチームのオーナーがAFLチームの買収に乗り出すケースが増えている。

さて、こんな知識を持って初めてアリーナフットボールの試合に足を運んだ筆者であるが、なかなか楽しい時間を過ごさせてもらった。今回観戦したのはAFLの2部リーグにあたるAF2の試合であった為、実際のAFLの試合とは大きな差があるだろう。しかし、試合後の感想は「面白いものを見させてもらったな」という感じで、また足を運ぶことは間違いないだろう。

わずか20年弱でここまでの規模のリーグを築き上げたAFLに関しては、まだまだ興味深い話がたくさんある。しかし、一つ言える事はこの成功はリーグの必死な経営努力の賜物である。どこかの国のプロ野球リーグにも、縮小路線を取る以前に出来る事があるはずなのだが。

星野太志@サンディエゴ

前のページに戻る page 1/1 ページの先頭に戻ります