|
NHLがなくなる?
NBAのプレーオフとMLBの開幕の影で少しかすんでしまってはいるが、NHLのプレーオフもカナダ国民の多くやアメリカの一部アイスホッケーファンの熱い視線を受けて日々熱狂的な戦いを繰り広げている。今シーズンは人気のあるチームがプレーオフで活躍している事もあり、連日2万人近い観客を集めたアリーナから試合の模様が全米中に中継されている。しかし、連日の熱戦を見ている限りでは信じられないが、実はこのNHLが来シーズンは開幕するかわからないのである。
「NHLは今シーズンを最後にシャットダウンする事になるだろう。」
アメリカの大学院でスポーツビジネスを学ぶ筆者だが、幸いにもアメリカのスポーツビジネス界をリードする多くの人物にお会いするチャンスに恵まれている。そうした機会に必ず私自身が投げかける質問がある。「来シーズン以降、NHLはどうなると思うか。」この質問に対して、大抵の人が上記のような回答をする。現状のビジネス構造のままでは、NHLはもはや存続していく事はできないだろうというのである。
NHLが直面する危機
ここで、NHLが抱える簡単な問題を簡単にまとめてみよう。アメリカとカナダに本拠地を置く30チームから構成されるこのNHLは、2002−03年のシーズンに30チーム合計で273万ドル(約290億円)の経営赤字を記録したと発表した。30チーム中19チームが赤字を計上し、あるチームの赤字額は年間40.9万ドル(約44億円)にも上るとされている。そして、こうした現状が続くようであれば、チーム経営を維持していく事は難しいと多くのチームのオーナーが口にしている。
NHLはNFL、NBA、MLBと並んで「北米4大スポーツ」の1つに数えられている。しかし、リーグ全体を見渡すとその人気や規模は他の3リーグに大きく水を開けられている。例えば、2002-03年シーズンのオールスターゲームの全米視聴率はわずか1.7%と沈んだ(同年のNBAオールスター視聴率は6.6%)。昨今のスポーツにおいてテレビの放映権料というのは非常に重要な収入源の1つとなっているわけだが、NHLの放映権収入は年平均でわずかに1億2000万ドル(約130億円)と少ない。4大スポーツの中で3番目に少ない放映権料を手にするMLBでも年間4億1670万ドルを受け取っており、これはNHLの収入が他の3大リーグに比べて非常に少ない現状を映し出している。
しかし、「入って来るもの」に対して「出て行くもの」においてはNHLも他のリーグと肩を並べようとしている。選手の平均年俸を見てみると、2001-02年シーズンのNHLで164万ドル(約1.7億円)に上るのに対して、2001年のNFLでは110万ドル(約1億1500万円)に止まり、NHL選手の選手年俸はNFL選手よりも高い事になる。当然、選手数の違いも影響してはいるが、収入に対する選手年俸の割合がNHLでは異常に高い事は明らかである。現に、NHLではリーグ総収入の76%が選手年俸として選手に支払われるが、これはNBAやNFLの約55〜65%に抑えられているのに対して非常に高い。なぜNHLはこのような状況に陥ってしまったのだろうか。それを説明するには、4大スポーツのリーグ構造において重要な役割を果たす労使協定(CBA)というものに触れる必要がある。
選手とリーグの決め事:CBA
NFL、MLB、NBA、そしてNHLを含むアメリカの4大スポーツリーグでは、チームのオーナー達で構成される「リーグ」と個々の選手達が集まって構成される「選手会」との間で、労使協定(CBA:
Collective Bargaining Agreement)が結ばれている。リーグのドラフト制度、フリーエージェントの制度、選手が受け取る事のできる給料の限度額、選手の肖像権の管理など、チームと選手の間の契約に関するルールを細部に渡って取り決めているもの、それがCBAである。日本でも最近はよく耳にするようになったが、「サラリーキャップ」や「贅沢税」などといった要項もこのCBAによって定められている。
NBAやNFLで採用されているのが、選手の年俸をコントロールする為の「サラリーキャップ」である。1チームが契約する事が出来る選手の総年俸に上限を設ける事によって、選手年俸が異常なスピードで高騰する事を抑えている。また、MLBやNBAで設けられている「贅沢税」も選手の年俸の高騰を抑制する為に設けられたシステムである。ある一定の金額を越える選手年俸を支払っているチームから、高額の選手年俸を支払う事のできないチームにお金が回るシステムである。
CBAの内容は数年に一度の頻度で更新される。リーグと選手会の代表が交渉につくわけだが、近年は両者の交渉が難航するケースが非常に多い。アメリカの4大スポーツにおいてリーグの開幕が延期されたり、シーズンが途中で中断されたりした話を聞いた事があると思うが、これはサラリーキャップや贅沢税の導入に関して様々な思惑が食い違い、なかなか合意に至る事ができない結果生じる。
NHLでは現行のCBAが2004年9月15日に失効され、その日までに新たなCBAが締結される事を目指して交渉が進められる。現行のCBAには選手年俸の高騰を抑えるシステムが一切盛り込まれておらず、それが年間300億円近い赤字の引き金になった事は明らかである。その為、早急に抜本的な改革は急務である。つまり、オーナー側が「年俸をコントロールする為のシステムの導入を選手会側が受け入れるまではシーズンを開幕できない」と主張する。それに対して、選手会側がその要求を呑む事は想像できない。NHLの開幕は今のところ期待できないのである。
CBAの交渉はしばしば「選手対オーナー」の金持ち同士のけんかのように受け止められる事が多い。もちろんそれも重要な側面ではあるが、もう1つ違った側面もある事に触れておきたい。
後編に続く…
Reported by 星野太志:アメリカ発
|