嗚呼、素晴らしきパブ文化
ニューカッスル公認「THE STRAWBERRY」
リヴァプールの本拠地アンフィールド

イギリス人にとって欠かせないもの。それはパブである。どんな小さな町や村でも必ず一軒はパブがあり、地元の人たちの社交場として賑わっている。きっとそれはおそらく、郵便局がないと困るように、日々の生活を送る上で重要な役割を果たしているからだろう。

イギリス人の飲むビールの量はとにかく半端じゃない。しかも種類も、軽い味のラガー、数百もの地場産があると言われているエールから、コクとまろやかな苦味が特徴のビター、そしてギネスで有名なスタウトまで様々。こちらではパイントという、日本でいうところの大ジョッキと中ジョッキの中間くらいのグラスに並々と注がれたビールを片手に友人たちと語らい合うというのが真っ当なスタイル。基本的にトラディショナルスタイルのパブではつまみなどないため、(あってもせいぜいポテトチップスくらい)ただひたすらに琥珀色の液体を胃に流し込むしかない。

だから当然、酔っ払うのも早い。普段はシャイなイギリス人だが酒が入ると途端に強気になる。そして気持ちよく酔っ払う分には一向に構わないのだが、中には道行く外国人に人種差別的な悪態をついたり、電話ボックスのガラスや車の窓ガラスをぶち割ったりするなど大暴れする輩を見るたびに、なぜフーリガンがこの国で社会問題にまで発展したのかがぼんやりと見えてくる。

話が少し逸脱したが、パブはイギリスのスポーツにとっても重要な役目を果たしている。サッカーであれラグビーであれ、どんなスタジアムにも隣接するようにパブがあり、ファン達の重要なコミュニケーションの場となっている。ニューカッスル・ユナイテッドのホームスタジアム、セントジェームズパークのすぐ脇には、「THE STRAWBERRY」という名前のパブがあるのだが、なんとこのパブはクラブ公認のサポーターパブとなっている。

リヴァプールの本拠地アンフィールドのサポーター席「コップエンド」の真後ろには「THE PARK」というパブがあるのだが、試合当日ともなれば、2時間前には赤いユニフォームを着た熱狂的なサポーター達で一杯になる。3月20日に行われたUEFAカップ準々決勝のグラスゴー・セルティック戦のときにそのパブに立ち寄ったのだが、パブの周囲には警官が立ち並び、退場は出来ても入場できないように規制するほどパブには人があふれ返っていた。しかもリヴァプールサポーターだけでなく、白と緑の横縞でおなじみのユニフォームを着たセルティックサポーターもパイントを片手にチーム名を連呼している。一人がリヴァプールの応援ソングを歌い始めると、たちまちパブ中が大合唱、だがセルティックファンも負けじと「ラーソン、ラーソン」と彼らがエースの名前を連呼して対抗する。同じパブ内でいざこざもなくお互いの応援が出来るなんて、プレミアリーグの試合、特に相手がマンチェスター・ユナイテッドやエヴァートンのサポーターならあり得ない話だ。

そしてその後に見た光景はまさに感動の一言であった。それまで相反していた声の洪水が、突然静まり返ったかと思うと、皆首に巻いていたマフラーを高々と掲げてひとつの歌を歌い始めたのである。

♪When you walk through a storm〜♪で始まる、あまりにも有名なサポーターズソング「YOU’ LL NEVER WALK ALONE」である。この歌といえばリヴァプールサポーターが有名だが、セルティックでも試合前には必ず斉唱するほどサポーターの心の中に息づいている。

想像してみてほしい。決して広くはないパブの中で、赤いマフラーと白と緑の縞のマフラーが入り混じって共に歌うひとつの歌を。そしてその後、互いの健闘を称えながら試合開始10分前にパブを出てスタジアムに入っていく光景を。これだけでもう胸一杯である。これが100年を超える歴史の中で培われてきたパブ文化なのである。

アルコールが原因でこれまでに様々な事故、暴動がスタジアムで起こったことは否定できない。現在ではスタンドでアルコールを飲むことは禁じられている。それでもビールがスポーツ文化の醸成に大きな役割を果たしてきたことは確かである。もしもパブがなかったらイギリスのスポーツ文化はどうなっていただろうか。ふとこんな事をイギリス人の友達に尋ねてみたところ、一笑に付された。

「地球が誕生してなかったら、我々はどうなっていただろうと言われて答えられるか」と。

なるほど、パブとは彼らにとってそういうものなのか。

Reported by 星見洋介:英国発

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