イングランドフットボール 下部リーグへの誘い
問題:イングランドにはいくつの「プロフットボールクラブ」があるでしょう?

 答えは92クラブ。ピラミッドの頂点に位置するプレミアシップ20クラブの下には、ディビジョン1〜3まで実に72ものプロクラブがあり、毎週末リーグ戦を行なっている。今回はそんな知られざる下部リーグの試合を紹介したいと思う。

 リバプールから電車に揺られること1時間半。やってきたのは北ウェールズの小さな町、レクサム。この町のディビジョン3のクラブ、レクサムAFCの試合を見に来たのは、友人が対戦相手であるサウスエンド・ユナイテッドのサポーターであったからに他ならない。

 レクサムの本拠地であるレース・コース・グラウンドは市の中心部から徒歩10分、最寄り駅からは徒歩1分のところにある、15,500人収容の屋根付きの専用スタジアムだ。

 この日は晴天ながら風が冷たく、試合開始30分前にスタジアムに入ったときにはまだ選手達がアップをしていた。コーヒーで暖をとり、友人と談笑しながら何気なくスタジアムを見渡してみる。

 クラブの創設が1873年ということもありスタジアムの作りも歴史を感じさせる。ホーム側のゴール裏は未だに、全席立見である一方、バックスタンドは改修したばかりで妙に新しく、その新旧のコントラストがどこかスタジアムの統一感を損なっていた。そしてグラウンドに目を向けたとき、すぐに気が付いたことがある。

 ゴール前の部分が隆起しているのだ。

 仮にもプロリーグが行なわれるグラウンドであるのできちんと手入れがされているかと思いきや、これでは日曜朝の草サッカーと同じである。芝もプレミアリーグのピッチで見られる、絨毯を思わせるようなキメの細かいものではなく、所々で土が覗いている貧弱な芝である。華やかなプレミアリーグとは明らかに異なるフットボールがここにはあった。

 そうこうしている間に練習が終了し、しばらくするとブリティッシュポップの軽妙な調べに乗って両チームの選手が入場してきた。ホームのレクサムは前節まで勝ち点45で10位、一方アウェイのサウスエンド・ユナイテッドは勝ち点42の13位であるが、両チームともプレイオフの権利が与えられる7位(勝ち点46)まで手の届く位置にいるため、負けられない試合である。

 試合は序盤からホームのレクサムが押し気味に進める。

 サウスエンドはロンドンから電車で1時間程東に行ったところにある、海に面した町である。ニックネームはシュリンプス(芝海老)。この日もわざわざ熱心なサポーターが詰め掛けて声援を送っていたのだが、サウスエンドは調子が出ない。前半に先制を許すとそのまま前半を終え、後半を迎えることとなった。

 正直に言うと試合自体はあまり見るべきところがなく、激しい当たりとロングボールという典型的なブリティッシュスタイルのフットボールには、眠気をこらえるのがやっとであった。

 後半になってもその展開は変わらず、いつしか目はピッチから客席に向けられるようになっていた。この日の観衆は3,100人余り。プレミアリーグとは天と地ほどの開きがある。レクサムの2点目が入ると、ホーム側のサポーターはアウェイサポーターを挑発し始めた。

 特にアウェイの応援団側に近い客はわざと卑猥なポーズや野次で煽りまくるのだが、その中の一人がマフラーをかざしているのを見て、はっと気づかされた。彼はWALESと書かれた赤と白と緑のマフラーを誇らしげに、イングランド人であるアウェイサポーターに向けてかざしていたのである。

 そうだ、ここはウェールズなんだ。そしてこの試合は(無論、大部分の試合はそうであるが)ウェールズとイングランドの誇りをかけた試合でもあるのだ。早い時期にイングランドに統合されたため、現在のユニオンジャックにも残されていない、レッドドラゴンの国旗。

 レクサムのチームエンブレムには2匹のレッドドラゴンが描かれているし、クラブのニックネームもレッドドラゴンである。街中の標識には必ずウェールズ語と英語が表記され、しかもウェールズ語が必ず英語の上に記されているのを見ると、彼らの意地というか誇りが感じ取れる。

 得点のたびにこちらに向けられたホームサポーターの野次は、長い屈辱の歴史を生き抜いてきた地元の人達の様々な感情が込められたものだったのかもしれない。しばらくすると試合を決定づける3点目がレクサムに入った。するとメインスタンド、バックスタンドからは憐れみと共に手が振られ始めた。

「バイバイ―」

 試合時間はまだ15分以上も残っているにも関わらず、サウスエンドのサポーターは手を振っている人々に悪態をつきながらも応援弾幕を外し始め、「Pride of Southend」とマーキングされたユニフォームを着ていたサポーターはなんと帰ってしまった。「オイオイ、お前達のプライドはそんなもんなのか?」と思わずつぶやいてしまう程あっさりと降参してしまったのだ。

 試合はそのまま3−0で終了した。すっかり凍てついた体をほぐすように立ち上がり、もう一度ぐるりと見渡す。試合中やや間の抜けた調子でブリティッシュポップを演奏していたトランペットと太鼓の楽隊も帰り支度を始めている。結局彼らがどちらを応援していたのかは最後まで判らず終いであった。

 試合内容はあまり期待できないが、その分地元ならではの光景に出会える下部リーグ。プレミアリーグ観戦の際には、スケジュールに盛り込んでみるのもいいのではないだろうか。新しい英国サッカーの側面に出会えること請け合いである。

Reported by 星見洋介:英国発

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