ペタンクで、いつだって気分は夏休み

 ペタンク――目標となる木製の小球(ビュット)に金属製の球を投げ合い、より近づけることを競う球技。地中海沿岸地方で盛んなブール(*小さい球のこと。筆者注)競技の一つである。【中略】ちなみにペタンクとは「足をそろえる」という意味の南フランス方言が語源となっている。(小学館「日本大百科全書」より)

 両足を地面に揃え腰を軽く落とし、アンダースローで小さな鉄の球を的に向って投げる。この行為は、まぎれもなくスポーツだ。しかし本音を言わせていただくと、ペタンクにはこんな情景がよく似合う――南仏の小さな鷹ノ巣村「エズ」。抜けるような青空、燦燦と降りそそぐ太陽。眼下にはコバルトブルーの地中海。いつものカフェテラス、陽の光を少しやわらげてくれる生い茂ったぶどうの葉。そしていつもの仲間と、いつも通りペタンクに興じる――。

 ピーター・メイルの映画「南仏プロヴァンスの12ヶ月」を見た人なら、容易に想像していただけるだろう。そしてペタンクで汗をかいた後は、パスティス(南仏で製造されるアニス酒)も欠かせない。ペタンクとはフランス人が思い浮かべる、理想の「バカンスの友」なのだ。

 現在このペタンクの競技人口は、発祥の地フランス国内で45万人以上。ただしこれは「バカンスの友」としてペタンクを愛する人の数ではない。仏協会の発行するライセンスを保持し、「スポーツ」として日々ペタンクに励む人たちの数である。

 ちなみにこのライセンスがなければ、公式大会に出場することは出来ない。ペタンク場によっては、試投げさえも拒否される。金属のボールが器物損壊、さらには人身事故さえ引き起こす可能性があるからだ。もちろんライセンスさえあれば「ペタンク保険」が下りるという仕組み。

 その公式大会だが、フランスだけで約3万もの大会が存在するという。村の小さな大会から、地域リーグ、フランスリーグ、さらにはフランスカップとレベルも様々。さらにはペタンク「クラブ」欧州一を決定するヨーロッパカップ、50ヶ国近くが参加する「国対抗」世界選手権(日本チームも出場)と、国際大会も盛ん。その中でも、ペタンク競技者なら誰でも出場を憧れるという世界最大規模の祭典「Mondial la Marseillaise(モンディアル・ラ・マルセイエーズ)」は、例えてみればサッカーW杯という感じだろうか。

 残念ながらこの「スポーツ」は、いまだ五輪種目には採用されていない。現在51カ国がIOCに要請を提出しており、関係者達によると2012年か2016年には採用される見通しらしい。もちろんこの見通しは、フランスのパリが五輪開催地として立候補していることをふまえてのこと。つまりは2008年が北京ではなくパリに決定していたら、早速その年から正式、または公開種目として採用する予定だったのかもしれない。結局現実では、北京で太極拳となりそうなわけだが。

 さて、真冬のパリ、その寒空の下でも、もちろん人々はペタンクに興じている。私のアパートの前にもペタンク場があり、クラブ・リベルテの方々が日々練習を積んでいる(パリには51の公式クラブが存在する)。ただし「練習」といっても、寒稽古やら猛特訓という言葉からは縁遠い世界である。

 さらに集合日時が決まっているわけでもないらしい。自分の気の向いた時こそが、ペタンクの時。それでも毎日夕方5時半頃なると、どこからともなく人々が集い始める。メンバーは次々と入れ替わりつつ、常に30〜40人くらいがペタンク場を取り囲む。プレーする人、じっくり観察する人、ただただおしゃべりに夢中な人…。これらほぼ100%が、男性。女性は見学さえもはばかられるほどの、つまりは男の社交場なのだ。

 ペタンクとおしゃべりを楽しんでいるうちに、やがてやってくるのが「L'Heure d'apero(=アペリティフ・食前酒の時間)」。彼らは「クラブ本部」でもあるご近所のカフェへ次々なだれ込む。おなじみパスティスやらビールやら、サイダーやら水やらで乾いたのどを潤しつつ、やたらと大声で薀蓄(うんちく)を語ったりする。ただし1、2杯飲み終わると、みなあっさり帰途に着く。アペリティフの後は、家で暖かい夕食が待っているのだろう。

 そしてパリのペタンク場から人が急に人がいなくなる頃、夏のバカンスが始まったことを感じる。本格的なペタンクシーズン突入で、各地の大会に遠征している人々も多いのだろう。そしてもちろん単にこの「バカンスの友」と、各々のバカンス地で、のんびり楽しんでいる面々も多いに違いない。

Reported by 宮本あさか:パリ発

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