スイスのジュネーヴは、レマン湖畔を一望できる街。この街は、レマン湖によって、歴史や文化、さらには経済や産業が生み出され支えられてきた。人々が冬の訪れを知らされるのは、レマン湖に集う渡り鳥たちが、南へと飛び立つ姿を目撃したときだ。

 その昔、冬になるとこの湖は、氷に一面覆われたことがあったという。それは本当に昔の話で、近年の地球温暖化の影響もあって、今では考えられない物語。当時、氷で埋め尽くされた湖では、その状態を利用した何らかの遊びが存在し、それに興じる人々の姿が見られたかもしれない。

 現在、スイスで盛んなウインタースポーツと言えば、アイスホッケーやスキーなどであるが、家族の娯楽のひとつとして、アイススケートがある。市内の中心地にスケートリンクが開かれるのは、12月の初めからで、週末にもなれば、家族や恋人たちでにぎわう。レマン湖畔から30メートル位しか離れていないこの特設リンクに、早朝、大学に向かう途中、立ち寄ってみた。

 この屋外特設アイスリンクは、ジュネーヴ市の観光局が主催者となっている。市が民間の地元企業などから共催を募って、実際上はジュネーヴ観光やマーケットのCOOP(コープ)、あるいは新聞社やFM局、さらにマクドナルドなどが協賛し運営している。
 
 開園時間は、月曜日が朝10時から18時まで、それ以外の曜日は、10時から22時まで開かれる。入場料は貸しスケート靴込みで、大人が6スイスフラン(約480円)、子供は3スイスフラン(約240円)とリーズナブルだ。マイシューズも持ち込み可能だが、入場料はもちろん払わなければならない。

 チケット販売場が設置されているその壁には、リンク内での禁止事項が記載されている。リンクの中での喫煙や飲食の禁止が書かれていて、面白いところでは虫(毛虫)を持ち込んではいけないとの指摘まである。そして、事故には責任を負わないと大きく明示されていた。

 お客が誰もいないリンクに、氷上整備車を運転する作業員の姿を見つける。彼から話を聞いたところ毎朝、削られた表面整備のために、作業をしているとのことである。ここで私は、ふとした疑問が生じた。「どうやってこんな大きな氷は作られるのか?」という素朴な問題。水を氷点下以下の温度で冷やせば、水は氷になる。では、スケートリンクのような大きな氷はどのような方法で製造されるのか。この疑問を解決するために、私はすぐに図書館に足を延ばした。

 答えは少しややこしいが、簡単に言えば、まず冷凍機で氷点下の冷たい水を作る。その水は、ほっといたら当然凍ってしまう。凍ったら使いものにならないし、リンクまで運ぶことができない。つまり、氷点下のままで凍らない水が大量に必要となる。そのためにブラインという特殊な液が登場する。これはちょうど車のラジエータに使う不凍液のようなものらしい。マイナス10度のブラインを冷凍機で作って床に流して、その上に水をまけば段々と氷ができあがる。氷の厚さは、なんと50mmから70mmだと言う。しかも完成するまで、2週間は費やすのである。

 これで氷はどうやって作られのかを解明したのだが、スケートがなぜ氷の上を滑るのか、という別の疑問がわいてしまった。実は、仮説のみが存在して、科学の世界ではまだはっきりと解っていないということだ。潤滑説や固体潤滑説など、聞いただけで頭が痛くなるような名前が記されていた。だからこの疑問に関しては、保留にすることにしよう。

 夕方、家までの帰り道、再びスケートリンクに寄ってみた。子供たちの笑い声や日本の中・高校生(こちらではコレージュやリセと言う)位の男女の姿を見かけた。ジュネーヴの平均気温は、日中6度で深夜は0度。寒いこの国で、人気の娯楽のひとつは、確かにスケートである、と、夜のリンクを照らすライトの下で滑る彼らの姿を見て、あらためて実感した。このアイスリンクは、永い冬が終わりを告げる、3月初めまで活躍する予定である(開園期間は12月6日から3月2日まで)。

Reported by 川本ミツル

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