非科学トレーニングと超科学トレーニング

立場上、競技力向上を目指す選手や健康の維持を目的とする方々のトレーニング面、または、栄養面をサポートさせていただく機会が多々あります。「指導」や「管理」するのではなく「サポートする」のが私のスタンスです。対象となる方によってその接し方、また、サポートの内容を対応させています。

現在はそこそこのレベルで、今後全国のトップレベルを目指して日々トレーニングに励んでいるような高校生や大学生の場合。サポートは、これまで、実験研究され、科学的(?)に有効であると証明されたトレーニングや食事法を取り入れます。血液を採取してその性状を測定したり、運動中の呼気ガスを分析したり、筋力を測定したり…。身体の各種機能を数値化、視覚化することによって、これまでのトレーニング効果を確認し、今後のトレーニングの指標や参考にするのです。レベルアップのためにトレーニングに科学を取り入れたもの(科学的トレーニング)と言えるでしょう。

一方、世界のトップを争うような選手の場合。女子マラソンの高橋尚子選手もその一人です。高橋選手はチームの中で「その他大勢の一人」でしたが、日々の苦しいトレーニングや数え切れないほどの試練を乗り越えて現在世界のトップを争っています。その過程には小出義雄監督(現佐倉アスリートクラブ監督)の指導の下、心身と競技レベルの向上に応じたトレーニングと栄養面からのサポートがあります。「科学」と言われている血液や呼気ガス、筋力などの測定をしなくても「顔色を見れば貧血かどうかわかる」「息づかいを聞けば心臓の状態がわかる」「筋肉を触れば疲労の程度がわかる」「歩き方を見れば意欲のレベルがわかる」…。小出監督は、長年の経験や思想に基づいた独自の理論をもっていらっしゃるようです。そして、高橋選手とともに試行錯誤を繰り返しながら独自の理論を越えたこれまで誰もやっていない未知のトレーニングに挑戦し続けているのです。したがって、トレーニングに応じた食事面や疲労回復の方法も試行錯誤を繰り返し。まさに手探り状態となります。

実験研究の世界では、ある条件に対して少なくとも5〜6人が同じような結果や傾向を示してはじめて効果がある(または、ない)と証明され、科学的トレーニングの基礎となっています。したがって、研究機関等での測定をせず、また、証明された既存の理論を取り入れていない場合、小出監督の指導法はまさに、「非科学」と言われてしまうことがあります。が、多くの条件や要素の中で測定できるもの、数値化できるものは一体どのくらいなのでしょう。

世界のトップはただ一人。5〜6人が同じような結果や傾向を示すレベルのトレーニングをしているようでは世界一は生まれないのです。私は小出監督の指導を「非科学」ではなく、科学を超える「超科学」ではないかと思っています。

選手がどのレベルにあるか、今、何が必要なのか。ある程度の理論を取り入れながらも独自のトレーニング法、食事法を確立していくこと、そして、それに満足せずに常に試行錯誤を繰り返していくこと。優れた選手、指導者にはゴールのないチャレンジ精神が不可欠です。

前のページに戻る page 1/1 ページの先頭に戻ります