上野 由岐子
Yukiko Ueno
ソフトボール日本代表投手
プロフィール 

今夏の世界選手権・中国戦。20歳になったばかりの上野由岐子(日立高崎)は、完全試合というパーフェクトなピッチングで、日本にアテネオリンピックの出場権をもたらした。世界最速の剛速球を武器に、上野は同大会で5試合に登板。日本の銀メダル獲得に大きく貢献した。
世界ジュニア選手権で優勝した経験を持ち、早くから逸材として注目を集めていたが、驕ることなく、大好きなソフトボールを極めるべく、日々黙々と練習に励んできた。物腰は常に素朴で謙虚な上野だが、発する言葉からはプライドの高さと、強い意志がストレートに伝わってくる。世界の舞台で戦って感じたこと、今後の課題について語ってもらった。

文:小川みどり



この試合に勝てばアテネ五輪に出られるって、
知らないで投げていたんです

―初出場の世界選手権。どんな心境で臨み、実際にどんな感想を持ちましたか?

上野 自分の力がどれだけ世界に通用するのかを、早く試してみたいという気持ちでいっぱいでした。不安とかプレッシャーはなくて、初めてなんだからとにかく思いっきりやってみよう、やるぞというか。外国選手と対戦して思ったのは、個人個人がソフトボールを楽しんでプレーしているなぁということ。日本は常に組織で動いているようなところがあるんですけど、海外の選手は個人の責任において行動していて、「やらなきゃ」じゃなくて、「やりたくて、やってる」ように見えていいなぁと。

―あるカメラマンが「日本選手は外国チームの選手たちと違って、試合に勝ってもあまり笑わない。優勝するまで最高の笑顔はとってあるんでしょうか。もっと笑顔が見たいんですけどね」と言っていましたが…。

上野 一人一人の目標が高いので、試合には勝っても「まだまだこんなもんじゃない、これじゃいけない」と思ってしまうのかもしれないです。でも自分はアメリカのようにもっと「喜怒哀楽」をはっきり出せるチームになっていいと思うんです。うれしいときはもっと喜べばいいし、怒ったりするのも、遠まわしでなく、もっとはっきり言っていいんじゃないかと。なんて、自分はわかりやすいんで、すぐ出ちゃうんですよ。チームプレーだからそういう感情を出したらダメなのではなく、出したうえでしっかりやっていきたい。喜ぶときはみんなでいっしょに喜んで、盛り上がっていきたいですし。

―世界大会デビューとなったニュージーランド戦。相手に先制されて、危機的な場面での登板になりましたが、そんなときでも上野さんは笑顔で投げてましたね。

上野 いえ、あのときは、ピンチだとかってその場の雰囲気を読む余裕がなかっただけで…。ちょっと緊張もしていたんで、ひたすら楽しんで投げよう、自分らしく投げようと、言い聞かせて、本音を言えば、無理に笑っているところもありました。いつもと周りの雰囲気が違うなぁ、これが世界なんだって思いながら投げていたというのか。でも、応援が気持ちよかったんですよ。いいプレーをすると、敵味方とか、国とか関係なく拍手してくれたり、ほめてくれたり。日本は自分のチームだけ応援していたり、野次がとぶことも少なくないんで、こういう応援っていいなぁと思って投げてました。

―ふだんはあまりプレッシャーを感じない上野さんも、今回、アテネオリンピックの出場権がかかった中国との対戦の前は、けっこう緊張したんじゃないですか。

上野 実は…、あの試合に勝てばオリンピックが決まるって知らなかったんですよ。

―ええっ、現地では試合前、あんなに話題になっていたのに、知らなかったんですか。

上野 はい。終わってからそれを知って驚いていたら、みんなに”普通はわかるよー”って驚かれてしまいました。だからいつまでも自分は”ビッグ ベイビー”って言われてしまうんですよね。

―それにしても中国戦の完全試合はすごかった。

上野 今回はピッチャーが5人いたので、自分の登板予定が少しあいていて、それで中国戦の2日前に坂井寛子さんがオーストラリア相手に、すばらしいピッチングをしているのを見て、”うわーっいいなぁ、私も投げたいなぁ”ってうずうずしてきちゃったんですよ。投げたい、投げたい、出番はまだかなぁって、そればっかり考えていたから、中国戦のときは気持ちも入っちゃったというか。試合前の練習でストレートがすごく走っているのが自分でもわかって、それと前の試合が長くなって、中国戦はナイターになったじゃないですか。照明の中で投げれば、自分のボールはさらに速く見えるんじゃないかなと思ったら、初回でテンポよく三者三振が取れて。打たれる気がしなかったんです。気持ちがピキッと入っていたので、1回が終わったときには”今日は完全試合ができるかな”って思いました。

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