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目の前で為末大が失速していく。
世界陸上、400mハードル。為末にはメダルの期待がかかっていた。
一次予選通過ラインは各組の4位以内。本当だったら楽々通過できるはずだった。
スタート。為末の持ち味は前半にある。最初からグングン加速し、リードを広げていく。世界陸上でも1台目に倒したものの、好調そのもののように見えた。
ところが――。
最後の直線に入って、為末のスピードが鈍ってくる。最後のハードルは「またぐ」のではなく、「跳んだ」。ハードル選手は跳んではいけない。自分が踏み切った力が前方ではなく、上に行ってしまっては力がロスしてしまうからだ。
ゴールがどんどん近づいてくる。ああ、2人の選手が迫ってくる。両者に胸の差でかわされる。
6位。
4位に入らなくとも、チャンスはあった。5位以下でもタイムが良ければ次に進むチャンスはあった。しかし0コンマ01秒差で為末の予選敗退が決まってしまった。
大きな世界大会では、報道陣が選手に話を聞くことができる「ミックスゾーン」という場所がある。きっと、誰よりも落胆しているであろう為末はマイクを持って現れた。
「波が来なかったです」
彼は残念そうに話し出した。
技術的な敗因としては、次のようなことをあげた。
「足が速くなっているのと、ハードルの技術が結びついていなかった」
話を聞いている途中でも、彼の動揺は伝わってきた。
「感情を抑えるのが精一杯です」
「不甲斐ない」
「自己嫌悪に陥っています」
つらそうだった。ついにはこんな言葉までも聞かれた。
「自分の選択が全部間違っていたんじゃないかと思ったりもします」
それでも、彼は最後まで気丈だった。
「陸上界では、自分がこういう活動をしていることで、いろいろ言う人もいます。そういう意味でも結果を残したかった」
為末は大会前、様々なメディアに登場して、世界陸上のPRに大きな貢献をした。彼の存在感は絶大で、それだけ期待も高まった。誰も彼を責めはしないだろう。
本当は大阪で、決勝という大舞台で為末の姿を見たかった。
とにかくこの経験を北京に生かして欲しい。それを願うだけである。
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