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その昔、箱根駅伝を走り、現在は作家になっている人に聞いた言葉がいまも印象に残っている。
「陸上ってのは、自分の体を変えていくスポーツなんです」
自分を変える。それがどういう意味を持つかというと、陸上選手は常に自分の内面と対話しているということなのだ。
経験上、陸上選手はとても哲学的だったりするのだが、それは自分と向き合っていくスポーツだからだと思う。
その中でもケタ違いの「哲学者」がいる。ハンマー投げ、アテネ・オリンピックの金メダリスト、室伏広治選手だ。
ハンマー投げは技術を要する競技だ。しかもそれのむずかしさを一般のファンに伝えることは、さらに困難をともなう。しかし室伏選手に話を聞いたとき、彼はこう解説してくれた。
「動物は走ることも出来るし、跳ぶことも出来ます。でも、動物は陸上競技の中で、投てきだけは出来ないんですよ。だからハンマー投げだけでなく、投てきというのは、知的動物でないと出来ない競技なんです」
話を聞けば聞くほど、室伏選手の言葉は魅力的に聞こえた。
「ハンマーをうまく投げれば、自分の一部が一緒になって飛んでいくことも出来るんです」
それだけの境地に達するまでに、いったいどれだけの時間を過ごしてきたのだろうかと思ったのだが、ハンマー投げに集中した時期は意外にも遅く、ハンマーに触れていたにせよ、本格的にスタートしたのは大学に入ってからのようだった。
聞けばハンマー投げの日本記録保持者だったお父さんの室伏重信氏が、「あまり早くから取り組む必要はない」とアドバイスしてくれていたのだという。
さらに感動的だったエピソードは、アテネでメダルを獲得したとき、メダルに古代ギリシア語の言葉が彫られていて、それをアテネの町で調べていく話だった。そして室伏選手は、回答にたどり着く。
「日々の努力にこそ、栄光はある」
優勝することではなく、毎日の練習の積み重ねにこそ、栄光があるんですと話す室伏選手の言葉には、真に意味での重みがあった。
これからも室伏選手は、より深みのある言葉を発見していくと思う。
投げる哲学者。
この夏、大阪で開かれる世界陸上で、彼の新しい言葉を聞きたい。
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