鈴木桂治

 鈴木桂治は年齢のわりに、ものすごく落ち着いているという印象がある。それは彼がアテネ・オリンピックで金メダルを獲得した直後に、インタビューしたからかもしれない。大学を出たばかりなのに、彼の柔道同様、すごく安定感があるのだ。

 彼がブレイクしたのは、2003年に大阪で行われた世界柔道からである。大きな国際舞台は大阪が初めてだったが、見事金メダルを獲得、鈴木桂治の存在感を世界に示した。

 そしてアテネ・オリンピック。鈴木の階級には日本柔道の屋台骨を背負って立つ井上康生がいる。この階級の代表はひとりだけ。代表選考会である全日本体重別選手権で鈴木は井上を下した。しかし100kg級の五輪代表には井上が選ばれた。

「いったい自分はどうしたら代表になれるんだろう。正直、暗い気持ちになりました」

 鈴木に残された道は、100kg超級の代表になることしかなかった。そして全日本選手権で決勝に駒を進め、井上に敗れはしたものの、鈴木は100kg超級の代表の座を射止めたのだった。アテネでの本番の結果はご存知の通り、鈴木は金メダルを獲得し、井上はメダルを逃した。

 アテネは主役が交代した瞬間だったのかもしれない。

 100kg級の鈴木と井上。このふたりのライバル関係は、柔道史だけでなく、日本のスポーツ史にとっても重要な対決である。鈴木は言う。

「オリンピックは100kg超級で金メダルを取りましたけど、やっぱり100kg級にこだわりはありますよ。康生さんのことは本当に尊敬しています。康生さんがいたからこそ、ここまで自分を高めることが出来たんだと思います」

 そして今年9月にカイロで行われた世界柔道で、鈴木は念願の100kg級で金メダルを獲得した。いよいよ鈴木時代の到来か、そんなことを思わせる強さだった。

 オリンピックのあと、鈴木はさらに人間的な強さを増しているように感じる。やはり金メダルを獲った人間には余裕と自信が生まれる。アテネの後のインタビューは、とんかつ屋で行った。気持ちがいい食べっぷりが印象に残っている。そして何より落ち着いた受け答え。柔道家は人間的な成長をともなって強くなっていく。

 そして鈴木と井上の対決はまだ終わっていない。両雄は並び立つのか。それとも決着の日が、いつか訪れるのか。

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