野村忠宏

 偉業を達成した男である。

 しかも来るべきアテネ・オリンピックでは、前人未到の記録に挑もうとしている。

 アテネ・オリンピック男子柔道60kg級の代表、野村忠宏(ミキハウス)は、すでにアトランタ、シドニーの2つの大会で金メダルを獲得している。そして今度、アテネで60kg級の3連覇に挑戦する。しかもその可能性はかなり高い。

 それでもシドニーからアテネにかけての4年間は野村にとって、紆余曲折のあった時でもあった。
「シドニーでは最高の内容で金メダルを獲ることができたんで、本当に柔道でやり残したことはなかったですね」

 オリンピックの連覇達成で、事実上の引退と見られていた。そしてアメリカへの留学。その間に心境の変化があったのだという。
「今、できることを考えたら、柔道は今しかできないものだったんです。それでもう一度、現役に戻ってみようと」

 2003年には大阪で行われた世界柔道で代表に復帰、惜しくも銅メダルに終わったが、内容は他の柔道家を圧倒していた。アテネに向けて、視界良好である。

 ところがオリンピックでの連覇という偉業を達成していながら、野村は不思議なことに国内で思ったほどの注目を集めていない。オリンピック好きの日本人にしては珍しいことだ。野村にとって不運なことに、これまで野村が試合に出場する日には、必ず田村亮子(現在は谷亮子)の試合があったため、野村が勝っても田村に注目が集まってしまうのだ。

 何せシドニーで連覇を達成した瞬間も、日本のテレビでは田村のインタビューを中継していたため、野村が見事一本勝ちをおさめたところを視聴者は見られなかったのである。なんとも気の毒なのである。

 しかし当の野村はそんなことは気にしていない、という。
「もう慣れました」

 と笑い飛ばす。先日、私が出演しているスポーツ・バラエティ番組にゲストとして登場した野村は、
「いやあ、3連覇達成しても新聞の一面は『田村(谷)、連覇』でしょう」
と軽い感じで予想し、
「僕は3連覇を達成してもウラ一面ですよ」
と笑っていた。

 柔道家は普段、あまり笑顔を見せない。しかしゲストでスタジオを訪れた野村は、よく笑った。聞けばテレビを見るときはバラエティがほとんどなのだという。
「バラエティは肩も凝らず、気楽に見られるのがいいですよね」

 そんな一面もあるが、畳の上での野村の集中力はすさまじい。ここ一番というときに最高のパフォーマンスを発揮する柔道家。それが野村忠宏なのである。

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