長谷川滋利

 シアトル・マリナーズの投手である長谷川滋利は、メジャーリーグに渡って、今年で8年目のシーズンを迎えている。
 1997年に彼がアナハイム・エンジェルスに移籍したとき、ここまでしぶとくメジャーのマウンドを守ると想像した人は、いなかったのではないか。ひょっとしたら、長谷川自身もそうだったかもしれない。
「そのときはメジャーで生き残れるかどうか必死だったから、将来のことまで考えてなかった。ただ、日本には帰るつもりはなくて、アメリカに住んでいる自分のイメージは想像できてましたけど」

 彼がここまでメジャーで生き残ってきた秘訣はなんだろうか。長谷川は自分の持つ力を「分かりづらい才能」と呼ぶ。
「同い年の野茂君には落差のあるフォークがある。イチロー君には抜群のスピードとバットコントロールがある。どちらにしても分かりやすいでしょ。でも、自分の力は他の人には分かりづらいかもしれない」
 彼の才能。それは「適応力」だ。どんな状況に置かれても、適応するために必要なものをたちどころに見つけ出し、状況に「アジャストメント」(適応)していく。それがメジャー8年目を迎えた彼の真骨頂だ。

 トレーニングで身体を鍛えるのと同様、適応力も適切なトレーニングをすれば、私はその能力が磨かれると思うようになった。長谷川の本棚を見たときである。
 シアトルにある家の書斎の本棚を初めて見たとき、「ビジネスマンの本棚だ」と思った。経済界で有名なウォーレン・バフェットをはじめ、速読術や投資関係の本がずらりと並んでいた。しかも英語と日本語の翻訳が2冊並んでいるものもある。スポーツの本はほとんど見当たらない。あっても、メンタル・トレーニング関係の本くらいだ。
「野球に全然関係ないように見えますよね。でも、あるんです。ビジネスマンの習慣や発想がマウンドの上で役に立つこともある。頭の中で情報が整理されていくと、ビジネスとスポーツって意外に考え方が近い部分があるんだな、と気づくんですよ」

 スポーツ選手だからといって、なにも身体を動かすことばかりがトレーニングではないのだ。本を読み、発想を学ぶ。それも立派なトレーニングなのだという。
 昨シーズンはオールスターに選ばれるなど、マリナーズ・ブルペンの大黒柱として活躍した長谷川だが、今シーズンは開幕から相手打線につかまることもしばしば。
「調子は悪くないです。こういう時こそ、自分にできることに集中すべきだと思っています」
 今年、年男を迎えた長谷川。頭脳的な投球が冴え渡る日が、きっと来る。

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