ウエイトトレーニングは適材適所を心掛けなければいけない。教える方も、教えられる側もただ無闇とバーベルを上げ下げしていては能がない。今やウエイトトレーニングはバーベルやマシンを使った範疇からはみ出して、多くの潮流を生んでいる。チューブはもちろん、テレビショッピングでお馴染みのトレーニングギア、腕立て伏せだって立派なトレーニングだ。
一部のトレーナーや運動生理学者たちは、ウエイトトレーニングという狭い呼び名を捨て、これら広範な抗負荷トレーニングを総称して、レジスタンストレーニングと呼称しているほどなのだから。
昨年アリゾナの大リーグキャンプを取材した際、何人かのトレーナーたちと話す機会があった。その中のひとりNの話を紹介しよう。彼はアナハイム、ミルウオーキー、カンザスといった都市を本拠地にする大リーガーたちをクライアントに持っている。
Nの仕事は筋力トレーニング指導を軸に、マッサージやストレッチングなどのアフターケア、食生活とサプリメンツのアドバイスにまで及ぶ。
「アスリートにウエイトトレーニングが大切なことくらい、そんなの小学生でも知っているさ。だけど重要なのはボディビル選手のような筋肉お化けになることじゃない。ちゃんと実戦に使える筋肉を作ることなんだ」
Nはこう言って笑っていた。
彼は97年から、バーベルやマシンを使ったトレーニングよりも、チューブを使ったPNFトレーニングを主体に指導している。PNFはドジャースのケビン・ブラウンが取り入れてから、メジャーリーグで急速に注目を集めている筋力トレーニング法だ。PNFは“キネティック・チェーン”と呼ばれる、身体の動きの連鎖を的確に把握することからスタートする。ピッチングの場合なら、脚部や体幹部で発生したエネルギーを肩を通じて指先にまで伝えることだ。
ピッチャーが肘や肩を壊すのは、下半身と体幹の柔軟性に欠け、全身の筋肉バランスが狂っているからだ。PNFは個々の筋肉を鍛えるのではなく、キネティック・チェーンに基づいて身体全体の筋肉のバランスを調整していく。PNFで筋肥大は適わないけれど、柔軟性に富んだ筋肉を作ってくれる。
「僕が言いたいのは、ウエイトトレーニングには、いろんな方法があるということだ」
彼はこう結んでくれた。
ウエイトトレーニングが本格的に日本へ上陸したのは敗戦後のことだ。当初はボディビルダーたちが、その普及に努めた。
だがボディビル流のトレーニングノウハウは貴重だし傾聴に値するものだが、あくまで筋肥大を至上目的とするものであり、すべてのアスリートに適合するわけではない。
例えばボディビルでは、1セットで10回を目標にバーベルの上げ下げする。その時には重量を感じながらゆっくりと動作を行わなければいけない。だがこれで最大筋力は養成できても、筋持続力や筋瞬発力は開発されにくい。日本のトレーナーや指導者は、各競技に適したトレーニング方法を早急に習得する必要がある。
1970年代も後半になって、やっと日本でウエイトトレーニングはコンディショニングの一翼を担うようになり、今ではその重要性はかなり理解されてきたようだ。それでもウエイトをすると身体が固くなる、身長が伸びない、心臓が悪くなるといった誤解はまだ根強いし、筋肉など不要と放言するコーチも依然として存在する。日本の科学トレーニングは欧米に比べて20年遅れていると言われるが、現状はまだまだ改善されていない。
適切なウエイトトレーニングの効果は、高齢者から少年少女まで年齢を問わず発揮される。筋肉は鍛えれば能力が向上し、使わなければ衰えていく一方だ。来年のオフシーズンには、プロ野球選手たちが「正しい」トレーニングを積み、その効果を実感していることを期待したい。 |