「おはようございます。」
2000年10月22日、白馬ジャンプ競技場に原田雅彦選手の声が響く。所属する雪印乳業の牛乳とチーズを観客に手渡していた。
この年の夏、雪印乳業が起こした食中毒事件のため、陸上部・アイスホッケー部(ともに後に廃部)とともに原田選手が所属するスキー部も活動自粛を余儀なくされた。世界の強豪選手が集結するサマーグランプリシリーズを欠場したため、久々の公式戦出場となった白馬カップの試技開始前に同僚の西方仁也選手らとともに雪印商品のイメージ回復のために観客に自社製品を配布したのだった。
現在、企業とスポーツの関係は過渡期を迎えている。かつては福利厚生の一環として創部された運動部は実力をつけて発展するに伴い、自社の広告塔として活躍した。しかしながら、景気の悪化により企業の業績が低下すると廃部が相次いだ。人気の低い種目ほど、その傾向が顕著であった。
競技スポーツのレベル向上に伴い、別の仕事に従事しながらトップレベルの実力を維持することは難しくなった。これまでのように企業の運動部の一員として活動する道も閉ざされつつある状況において、トップスポーツ選手はどうすればいいのだろうか?
現在最も主流となりつつあるのは、プロ化である。日本ではプロ野球・プロゴルフ・競馬・競輪・競艇などの選手は以前よりプロ選手として契約金や賞金を得ていた。これらの競技に共通するのは人気があること、すなわちその競技の周辺でお金が動いていることであろう。一般的に人気が高くない競技においても、マラソンの高橋尚子選手や柔道の田村亮子選手など実質的なプロ選手として活動している場合もあるが、これは実力・人気とも兼ね備えたほんの一握りの選手に許された行為である。
このような現状を踏まえると、プロ活動が成り立たない状況で競技を継続していくためには、レベルダウンを覚悟してでも別の仕事と両立しなくてはならない。競技レベルが低下するとさらに人気が落ち、プロ化への道も遠のき、ついにはその競技の存続すら危うくなる。
この状況を一番認識しなければならないのは各競技団体である。余暇を利用して行うスポーツはどの競技も等価であるが、職業として行う場合は等価ではない。観客やファンをひきつけることができる競技でなければ職業選手は成立しない。そのためのルール改正、レベル向上、競技普及、これらを実践するための仕組み作りに競技団体は注力しなければならない。競技の生存競争が始まっているのである。
2001年秋、前年まで行われていたノルディックスキージャンプの白馬カップがスポンサー不足のために中止された。そこで長野五輪で活躍したボランティアが立ち上がってソルトレーク五輪壮行サマージャンプ大会を開催した。派手な演出はなく観客も少なかったが、選手・裏方・観客一体となって皆が楽しんだ競技会であった。スポーツ本来の姿をここに見たような気すらした。しかし、このような形態を続けているのでは職業選手が成り立たないのは言うまでもない。ノルディックスキージャンプも含めて多くのマイナー競技が今後どのような道をたどって行くのか、これからが正念場である。 |