大阪府立茨木高校水泳部の取材を始めたのは、7月24日のことだ。
同水泳部は2005(平成17)年に創部90周年を迎える伝統があり、競泳では過去にオリンピック出場者を多数輩出。競泳から水球へと活動がシフトした現在も、インターハイの常連校として名をはせる強豪校でもある。
24日はそのインターハイ出場をかけた近畿予選の1回戦、兵庫県立御影高校との対戦の日だ。試合会場は京都府立鳥羽高校。真夏の眩しいほどの日差しがプールの水面を輝かせる、絶好のプール日和だった。プールに飛び込んだらどんなに気持ちいいだろうと、のんきな気持ちで構えていたが、試合開始とともに、一気に選手の動きに引き付けられた。
水中の不自由を感じさせない、次から次へと繰り出されるシュート。速攻のシーンあり、敵のボールを奪い、巧みなパスワークで得点へと持ち込むシーンあり、予想以上のスピーディーな展開にカメラのピントが追い付かない。プールの水深が2メートル以上あるというのに、ホッピングでも仕掛けてあるのかと思うほど、シューターは半身ほど水上から飛び上ってゴールを決める。相当な威力であろうボールを生身の体で受け止めるのはキーパーだ。体を張って止める度に、バン、バンとボールが体に跳ね返る音が鳴り響く。
豆鉄砲数打ちゃ感覚で、必死でシャッターを切ること約1時間。はっと気がつけば、第4ピリオド終了の笛が鳴っていた。試合は15対6で、大阪府立茨木高校の勝利だった。
大阪府立茨木高校はその後、近畿予選3位という成績を収めてインターハイ出場を決めた。
試合に勝てる秘訣は、作戦通りの展開ができるかどうかだろうか…。取り終えた写真を確認しながら、そんな風に感じた。だが、そんな想像は的外れだった。もちろん作戦も一因であることは確かだが、それよりももっと重要なものがあることに気づかされたのだ。
それは、8月4日、インターハイ出場を控えて練習に励む選手を訪ねた時だった。
「しんどい競技だからこそ、真面目にコツコツ頑張った人間が結果を残すことができる。基本的な練習であったり、スタミナであったり、そんな力の積み重ねが差になって、結果的に勝敗を分けるんです。素質よりも、基本的な力をいかに積み上げていくか。極端に言えば、誰でもできる競技なんですよ」
大阪府立茨木高校水球部の木場恒樹監督は、水球の勝敗についてこう語る。体力の差。スピードの差。それを埋めるのは、センスでも才能でも作戦でもないという。一日一日の厳しい練習に耐えぬくことができるか。水球も競泳も初めてというビギナーが多数入部する大阪府立茨木高校が、インターハイの切符を勝ち取ってきた背景には、そんな監督の持論が存在していた。
積み重ねを重視する分、日々の練習は厳しい。体づくりは3ヶ月後に結果が出るとされる。「目標の試合までに、この程度の体力が必要」と定めれば、その日の3か月前から体を追いこむような練習が始まる。
監督が、選手にこのような努力を経験させるのは、勝利以外にも意味がある。
「インターハイで、最後まで笑って終わるのは全国で1チーム。選手のほとんどは最後、泣いて終わるんです。最初から2番手をめざしているわけではないんですけど、勝っても負けても、『やってよかったな』『また次がんばろう』と思えるようになってほしい。水球で頑張った、努力してきた自分を土台に、次につなげられる心を持って引退してほしいんです。将来、頑張れそうになくなったら、OBとしてここに戻ってきてもらったらいい。昔の高校時代を思い出して、また明日から自分の世界に戻っていくような、そんな器にプールがなればいいなと…」
実際に、水球部ではOBやOGが練習に駆けつけることが多い。彼らにとって、プールは自分の原点に立ち返ることのできる故郷のような存在なのだろう。
「頑張る楽しさを教えるのが体育教師としての役目。体力的に追い込まれたり、部員同士でけんかしたり、励まし合ったり、そんな経験が人生を豊かにするんだと思います」
水球女子キャプテン 村居慈(むらいめぐみ)さん
女子チームはすごく仲がよくて、元気があります!
練習以外の時にみんなで集まっても、ほとんど水球の話になりますね。
作戦の話で盛り上がってます。
水球男子キャプテン山中裕太(やまなかゆうた)君
個性がバラバラのメンバーですが、まとまるとすごいチーム。
練習はしんどいですけど、楽しいということは忘れない。
試合でも楽しむことは忘れないでいたいですね。
8月17日、地元大阪プールで、「2009近畿まほろば総体」水球の戦いが始まった。
大阪府立茨木高校の初戦は18日、7年ぶりに出場の宮城県柴田高校との対戦だった。地元開催という優位な条件もあり、茨木(※以下、高校名が頻繁に出てきますので、茨木、柴田で表記していきます)がリードする展開が予想されていた。
しかし、初戦という緊張のせいか、茨木は第1ピリオドでパスミスやファウルを連発。柴田に次々と点を奪われ、2対5で第1ピリオドを終えた。続く第2、第3ピリオドは、茨木の逆襲が始まるも、キーパーの好セーブに阻まれ、8対6と相手に2点リードを許したまま終了。最終ピリオドも、なんとか同点に追いつきたいという焦りと、疲れとが茨木を襲い、なかなかシュートに至らない。対する柴田はカウンター攻撃が成功し、ゴールを決め続けた。結果、茨木は11対6で初戦敗退となり、「泣いて終わる立場」となった。
試合が終わり、選手がプールから上がってきた。泣き崩れる彼らに、木場監督が何やら声をかけているのが、遠目に確認できた。
何と声をかけたのだろうか。試合終了後、監督へのインタビューでそれを尋ねてみた。
監督は、「最後までちゃんとやれ。試合だけじゃない。悔しさを次につなげろ」と言ったのだった。それは、監督が練習のなかに込めていた思いに違いなかった。試合だけじゃない。勝ち負けではない。努力したという事実が大事なんだと。
そして、この言葉の重みを最も理解しているのは、努力してきた選手自身に他ならない。
山中キャプテンもまた、こんなコメントを残している。
「みんなと水球ができて本当によかった。次も頑張っていきたい」
彼らの人生は、これからが本番だ。迷ったり悩んだり、苦しいとき、水球の経験がヒントになる時がくる。負けた経験も、役立つ瞬間がある。それこそが、水球が残してくれた何よりの財産だ。
「インターハイ選手として誇りをもって、次を歩んでほしい。人生はまだまだ、これからです」
取材日:7月24日(京都府立鳥羽高校)/8月4日(大阪府立茨木高校)/8月18日(大阪プール)

- 藤田 あかり(Akari Fujita)
- 大阪府出身。2001年京都外国語大学英米語学科卒業後、フリーライター。
アスリート、作家、職人、老舗の当主など、人にクローズアップした取材を中心に活動。

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